この絶望的な収入格差を埋めない限り、いくら夫が朝食をつくったりゴミ出しをしたりしても、会社が育休や卵子凍結などの福利厚生を充実させても、「女性活躍」など実現できるわけがないのだ。
日本社会で急速に広まる「卵子凍結の費用補助」は、子どもが欲しいけれど闘病中などさまざまな事情ですぐにできない女性にとって非常に喜ばしいことである。半面、「少子化」や「女性活躍」という社会課題にはほとんど関係がないということがわかっていただけたと思う。
卵子凍結が普及するほど
日本の少子化が悪化する?
それに関して、最後にもうひとつのシナリオも指摘しておく。それは卵子凍結が普及すればするほど、日本の未婚化・少子化が悪化していくという可能性だ。
まず、いわゆる「妊娠適齢期」に縛られることがなくなるので、ドラマやマンガで描かれる「早く結婚しなくちゃ」という女性側の焦りや、家族や友人からのプレッシャーも弱まる。「いいことじゃないか」と思うだろう。筆者もまったく同感だが、戦前の日本の「産めよ増やせよ」のような社会的圧力が「多子化」の背中を押すことが、さまざまな国の事例からもわかっている。
また、健康な女性がこの制度があることに安心して、出産の時期を先延ばしにしていたばかりに、子どもを授かることができなくなってしまう、というセンシティブな問題が起きることも予想される。
こども家庭庁や日本産婦人科学会も注意喚起をしているが、卵子凍結は必ずしも妊娠に結びつくわけではないし、排卵を促す薬の使用で血栓(血の塊)ができるリスクもある。つまり、「いまは仕事に集中したい」と会社の福利厚生を利用して、卵子凍結をしたものの、月日が流れて子どもが欲しくなってもなかなかそれが叶わない――という「悲劇」も予想されるのだ。
誤解していただきたくないが、脅しているわけではない。卵子凍結のような生殖補助医療が日本よりも普及している欧州でも少子化には歯止めがかからない。つまり、「便利な技術や制度ができればできるほど、子どもをつくらなくなる」というのは人間の特徴だということが言いたいのだ。







