スクワットなどを行って、全身の大きな筋肉を継続して動かすと、体内で筋肉を合成する物質が作られます。

 こういった物質がたくさん出ていれば握力もアップしますが、逆に全身の筋肉をあまり動かさず筋肉を合成する物質が出てこないと、握力だけを単独で鍛えることは難しいので、握力は上がりません。

 したがって、握力を測ることで日頃から全身の筋肉を動かしているかどうかが推し量れる、と考えられるわけです。

 筋肉は手や足だけでなく、呼吸に関係する呼吸筋、心臓を動かす心筋、胃や腸を動かす腹筋群や腸腰筋、さらには血管に至るまで、全身のあらゆる場所にあります。だからこそ、握力を見ることが体全体の見えない筋肉の量まで反映し、さまざまな病気のリスクを予測することにもつながっているのです。

図表:握力診断同書より転載 拡大画像表示

握力が弱い人は
死亡リスクが高くなる

 福岡県久山町では、これまで約60年にわたり、町をあげて住民の健康診断と詳しい体力測定を続けています。その膨大な蓄積データは今なお世界のさまざまな医学研究を支えています。

 この久山研究の中で最近、さまざまな病気による死亡リスクと握力に強い関係があるということが出てきました。握力が弱い人たちは、平均値の人たちよりも病気による死亡リスクが高くなってしまうというのです。

 久山町での長年の研究の結果、握力が平均より低いグループでは、男性、女性いずれも脳卒中や心筋梗塞をはじめ、さまざまな病気による死亡リスクが高くなることがわかりました。

 このように、握力が低下すると、さまざまな病気による死亡リスクが増加してしまいます。つまり握力は、全身の見えない筋肉の量を反映するバロメーターだったのです。

図表:世代別握力平均値同書より転載 拡大画像表示