同じく、実用的なだけでもクリエイティブとは言えません。クリエイティブであるには、新奇性と実用性の両方が必要なのです。

 この新奇性と実用性を判断するには、何らかの基準が必要です。どのような分野であれ(フランス料理、有機化学、ラップ音楽、建築設計)、クリエイティビティは常に従来との比較によって判断されるものなのです。

 それゆえ、とくに初対面の相手のクリエイティビティを判断するのは簡単ではありません。就職の面接や顧客へのプレゼンテーションなどがその典型です。相手がナルシシストである場合には、さらに話がややこしくなります。

 ナルシシストは、自らの製品やプロジェクトをクリエイティブなものだと見なし、自分やそのプロジェクトを目立たせることに全力を注ぎます。それは鳥類の求愛行動にも似ています。私も学会などの場では、羽を広げる孔雀のように自らの業績をアピールする自己陶酔的な学者をよく見かけます。

他者に上手に創造力を
アピールするナルシシスト

 しかし実際には、ナルシシストが必ずしもクリエイティブであるとは限りません。にもかかわらず、ナルシシストは自らがクリエイティブであるという妄想を抱き、それを上手に他者にアピールするのです。

 たとえば「ハリウッド映画の脚本のアイデアを売り込む」といった状況においては、熱意やカリスマ性を発揮できると、本当にクリエイティブな人間だと見なされる場合があります。このため、クリエイティビティを計るための客観的な基準が少ない分野ではとくに、ナルシシストの一度きりの売り込みだけで判断しないようにすべきです。

 カリフォルニア大学バークレー校のパーソナリティ・アセスメント・アンド・リサーチ研究所(IPAR)もそれを実践しました。ある分野で長期的にクリエイティブな仕事をした人物や、卓越した仕事をした人物を評価するために、その分野の専門家の力を借りて、小説家や科学者、経営者、軍人、数学者、大学院生などの多様なジャンルを研究したのです。なかでもよく知られているのが、建築家のクリエイティビティについての研究です。