どんな不幸が訪れても
意外とすぐに立ち直れる
だがさいわい、順応はよい方向にも働く。快楽の踏み車という用語をつくった心理学者フィリップ・ブリックマンの古典的な研究(注2)は、宝くじ当選者と、事故で半身不随になった人の幸福度を調べた。
その結果、順応が働いたために、これらの人生を激変させるできごとが、人々の長期的な幸福度に与えた影響は、限定的だったことが判明した。
宝くじを買う人や、麻痺を恐れる人のほとんどが、この結果に驚くはずだ。
実際には、ブリックマンはおそらく、宝くじ当選の影響を過小評価したものと思われる(とくに、お金を必要とする人にとっては、幸福度を上げる効果が高い)。それでも、そうした衝撃的なできごとが、長期的な幸福度に思ったほど影響しない、という点では、彼は正しかった(注3)。
永久的な麻痺が幸福度に与える悪影響も、私たちが想像するほどには大きくない。
たとえば、231人の脊髄損傷患者を対象とした研究で、大半の人が「幸せだと感じることが多い」と答え、「ほとんどまたはまったく幸せを感じない」と答えた人はわずか10%だった(注4)。
また、慢性疾患患者が報告する生活の質は、一般に思われているよりもずっと高い(注5)。なぜなのだろう?
どれほどの幸せがいつまで続くかを
予測するのは極めて難しい
私の研究仲間で社会心理学者のダン・ギルバートは、ベストセラー『明日の幸せを科学する』の中でこう書いた(注6)。
私たちは一般に、何が自分を不幸せにするか(空腹や退屈な仕事、別離など)よりも、何が自分を幸せにするか(よい食事や仕事、パートナーなど)を知るほうが得意だが、それらが「どれだけ」の幸せを、「どれくらい長く」もたらすかを予測するのはとても苦手だ、と。
(注2)Brickman P., Coates, D. and Janoff-Bulman, R. (1978), ‘Lottery winners and accident victims-is happiness relative?’, Journal of Personality and Social Psychology, 36(8), pp. 917-27.
(注3)Lindqvist, E ., Ostling, R . and Cesarini, D . (2020), ‘Long-run effects of lottery wealth on psychological well-being’, Review of Economic Studies, 87(6), pp. 2703-26.
(注4)Duggan, C., Wilson, C., DiPonio, L. et al. (2016), ‘Resilience and happiness after spinal cord injury:a qualitative study’, Topics in Spinal Cord Injury Rehabilitation, 22(2), pp. 99-110.
(注5)Sackett, D. L. and Torrance, G. W. (1978), ‘The utility of different health states as perceived by the general public’, Journal of Chronic Diseases, 31(11), pp. 697-704.
(注6)Gilbert, D. (2006), Stumbling on Happiness (London:Harper Perennial)







