だがある研究で、免許試験に何度も落ちた人の感情予測を調べたところ、何度落ちても幸福度の予測は変化しなかった(注9)。試験に落ちた人は、がっかりする期間が実際よりも長いと予測し、その後何度落ちてもこの予測傾向は変わらなかった。
過去に1回だけ落ちた人と、4回以上落ちた人とを比べても、まったく同じ結果が出た。私たちは感情に関する限り、なかなか経験から学ばないのだ。
失敗を過剰に恐れて
心を病んでしまう学生たち
失敗への恐れは、今日の教育システムが抱える最も差し迫った問題の1つである。
私の大学にも、落第を恐れるあまり、心を病む学生たちがいる。「どんな結果が出ても、長い目で見れば思ったほど悪いことにはならないよ」といつも言っているのだが、それでも彼らの不安はぬぐえない。
もっと心配なのは、彼らがただ落第を恐れるだけでなく、「好成績を収めなければ」という強迫観念にとりつかれていることだ。平均以下の成績では話にならないというのだ。
失敗は、学習経験としても過小評価されている。失敗を通して謙虚さを学ぶだけでなく、自分の決意がどれだけ固いのか、あきらめずにどれだけ頑張れるのかを知ることもできるのだ。
失敗から立ち上がった
経験を持つ人は成功しやすい
これを説明するために、私は授業でこんなエクササイズをしている。
まず、「起業家になりたい人はいますか?」と聞くと、多くの手が挙がる。この年代の若者の多くが、一旗揚げたいと思っているのだから、当然だ。
次に、起業するにはベンチャーキャピタル(VC)から出資を受ける必要があることが多く、その場合は事業のアイデアを投資家に売り込まなくてはいけないと説明してから、こう問いかける。
「君たちが投資家だったとしましょう。ここに、同じくらい魅力的な事業計画を売り込む、2人の起業家がいます。1人は一度も失敗したことがなく、もう1人は過去に何度も失敗しています。どちらを選びますか?」
(注9)Ayton, P., Pott, A. and Elwakili, N. (2007), ‘Affective forecasting:why can’t people predict their emotions?’, Thinking & Reasoning, 13(1), pp. 62-80.







