日本語を勉強したものの
使う機会はほとんどない

 実際、こうした理由で、この団地に集まる中国人は非常に多い。

「団地に対する不満も特にありません」

 今はこの団地で、同じ福建省出身の妻と、2人の娘に囲まれ、幸せな日々を送っているという。

「日本語は難しくて、大学で覚えた日本語はもう全部忘れてしまいました。でも今では客の3分の2は中国人だから、コミュニケーションで心配をする必要もありませんけどね」

 そう笑顔で話すのは、団地の八百屋で働く男性、王有昆さん、39歳だ。中国東北部、遼寧省瀋陽市の出身。新型コロナが蔓延する前の2019年に来日し、大学時代のクラスメートが住んでいたこの団地に、王さんも住み着いた。

 住み心地が良く、もうここから「離れるつもりはない」という。

住民トラブルが多発するも
長い月日をかけて共生を実現

 1978年、日本の高度成長期を象徴するかのように誕生した、巨大な川口芝園団地。

 だが、団地完成とともに開校した近くの小中学校は既に、少子化のあおりで閉校になっている。代わりに流入したのが、多くの中国人留学生やその家族たちだった。

 そんな団地のあちこちをみると、多くの中国語を目の当たりにする。ごみ置き場の看板には、「毎周二次、星期一、星期四(毎週2回、月曜日、木曜日)」などと回収日のお知らせが中国語で、中国人家庭にも分かりやすく書かれている。

「たばこの吸い殻 投げ捨て厳禁」「飲み食いした物のゴミは家に持ち帰って」「強風時には扉を閉めよ」「壁にボールをぶつけないで」など、芝園団地のあらゆる掲示には、日本語だけでなく、中国語もしっかり併記されている。

 日本と中国では当然、生活習慣が異なる。そのため以前は、団地でゴミ捨てや騒音などを巡って、日本人と中国人の住民の間でトラブルが絶えなかった。

 だが、時間をかけ、共生を目指してきたという。団地の自治会は、地元の埼玉大学や東京大学などの学生で構成するボランティア団体「芝園かけはしプロジェクト」の協力を得た。