中国語が響き渡る
川口市にある芝園団地

「バー(爸=パパ)!」「マー(媽=ママ)!」

 埼玉県川口市、日本車輌製造・蕨工場の跡地。そこには今でも、世界初の新幹線「0系」の量産車がこの場所から生まれたことを記念し、「新幹線電車発祥の地」と刻まれた碑が、静かにたたずむ。

 かつて機械音が響いていたこの広大な工場の敷地も、まさか半世紀の時を経て、中国人の子供たちの声が元気に響き渡る、大型団地へと姿を変えていようとは――。

 JR京浜東北線蕨駅(埼玉県蕨市)から歩いて約10分。全国有数の大規模団地「川口芝園団地」が姿を現す。都市再生機構(UR)の賃貸住宅だ。

 敷地面積はおよそ10万平方メートル。東京ドーム約2個分の広さを誇り、総戸数は2454戸。1970年代に完成したこの巨大団地だが、今では日本人の居住者は大幅に減り、住民の約半数は中国人世帯で占められるようになった。

 団地内の広場を囲むように立ち並ぶ商店も、中国一色。「ガチ中華」の店から、中国語の値札で商売する八百屋、中国人経営のドラッグストア、中国人向けの保育園までもがそろい、住人はこの閉ざされた「中国経済圏」の中で暮らすことが可能だ。

 実際、中国人にとって、ここでの住み心地は一体どんなものなのか。

「日本の都心のマンションには広場が少ないです。でも、ここは緑が多くて、中国の団地によく雰囲気が似ています。駅にも近いし、とても気に入っていますよ」

 団地の中央広場の真ん中で娘と遊びながら、こちらの突然の質問にも笑顔で答えてくれたのは、東京都内の貿易商社に勤める中国人男性、張敏さん、31歳だ。

 7年前、福建省から日本に渡ってきた。当初は神奈川県の川崎市内に住んでいた。だが、知人の紹介や中国のSNSで口コミを見たのをきっかけに、この団地の存在を知り、最近引っ越してきたという。

「家賃は安くありませんが、URは、礼金や仲介手数料、更新料、それに保証人も不要なので、本当に助かります」