「構想力・イノベーション講座」(運営Aoba-BBT)の人気講師で、シンガポールを拠点に活躍する戦略コンサルタント坂田幸樹氏の最新刊戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』(ダイヤモンド社)は、新規事業の立案や自社の課題解決に役立つ戦略の立て方をわかりやすく解説する入門書。企業とユーザーが共同で価値を生み出していく「場づくり」が重視される現在、どうすれば価値ある戦略をつくることができるのか? 本連載では、同書の内容をベースに坂田氏の書き下ろしの記事をお届けする。

トランプ関税、高市発言…「変化に弱い組織」と「変化を味方にする組織」の決定的な差Photo: Adobe Stock

目の前の変化に過剰反応する
組織の弱点とは?

 あなたの会社では、米トランプ氏の発言による関税リスクや、高市首相の経済政策発言など、時事情報を日々追いかけているでしょうか。

 もちろん、こうした最新情報に敏感であること自体は悪いことではありません。経営に影響を与える外部環境を正しく理解する姿勢は、どの企業にとっても必要です。

 しかし、ニュースに振り回され、

「次に何が起きるのか」
「どう対処すべきか」

 と気を揉んでいるだけでは、戦略の質は上がりません。

 短期的な変化の一部だけを捉え、それに反応することに終始してしまえば、新しい情報が出るたびに方針が揺れ、戦略が固まらず、現場は定まらぬ方向性に疲弊してしまいます。

 では、変化を味方にし、柔軟に戦略を描ける組織は何が違うのでしょうか?

短期の変化ではなく、
“10年の流れ”で未来を見る組織は強い

 変化に強い組織は、目先の情報ではなく、10年単位のメガトレンドに着目します。

 たとえば、人口動態の変化、気候変動とエネルギー転換といった、構造的で不可逆な潮流です。

 こうしたメガトレンドは、日々揺れ動くニュースとは異なり、10年後の世界がどのように変化していくかを示す“骨格”となります。

 現在の情報から未来を積み上げる企業の戦略は、どうしても場当たり的になり、変化に追われ続けることになります。

 一方で、メガトレンドを基点に10年後の姿を描き、「では、いま何を準備すべきか」と逆算するバックキャストの視点を持つ組織では、日々のニュースの意味づけがまったく変わります。

 目先の変化に振り回されるのではなく、長期視点の中で「どの変化が重要か」を選び取れるようになるからです。

戦略は、10年の未来から逆算して設計する

 時事情報は、戦略の本質ではなく“材料のひとつ”にすぎません。

 本当に戦略の質を高めるためには、中期経営計画のような短期サイクルの思考から離れ、10年単位での未来を描くことが重要になります。

 10年後にどういう社会が訪れ、自社は誰にどんな価値を届けるべきなのか?

 その未来像が定まれば、ニュースの変化は「反応すべきもの」ではなく、未来に向けた歩みを調整するための補助線として整理できるようになります。

 その結果、組織は変化に振り回されるのではなく、変化を味方にして戦略を磨く側にまわることができるのです。

『戦略のデザイン』では、こうした“未来から逆算する思考法”を、詳しく解説しています。

坂田幸樹(さかた・こうき)
IGPIグループ共同経営者、IGPIシンガポール取締役CEO、JBIC IG Partners取締役。早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)。ITストラテジスト。
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト・アンド・ヤング(現フォーティエンスコンサルティング)に入社。日本コカ・コーラを経て、創業期のリヴァンプ入社。アパレル企業、ファストフードチェーン、システム会社などへのハンズオン支援(事業計画立案・実行、M&A、資金調達など)に従事。
その後、支援先のシステム会社にリヴァンプから転籍して代表取締役に就任。
退任後、経営共創基盤(IGPI)に入社。2013年にIGPIシンガポールを立ち上げるためシンガポールに拠点を移す。現在は3拠点、8国籍のチームで日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。
単著に『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』『超速で成果を出す アジャイル仕事術』、共著に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(共にダイヤモンド社)がある。