こうした怒りの感情は、何かを大切に思っているからこそ生まれています。もしかしたら、この怒りの裏には、「今は結果を出せていないけれど、一生懸命に頑張っているメンバーが正当に評価されてほしい」という願いが隠れているのかもしれません。

 この願いに気づけば、上司に対する苛立ちによって、心理的リソースを消耗するのではなく、「上司にメンバーのことを、もっと上手にPRしなくちゃいけないな。どうすればいいかな?」などという建設的なアクションへと結びつけることができるようになるのです。

4 過去の情熱

【問い】過去に、ワクワクした場面では、何が起こっていましたか?
それはどんな願いが満たされていたからですか?

 チームの業績が低迷し、メンバーとの関係性も悪化したりすると、誰だって「こんなチームでは、もうやっていられない」などと、殺伐とした気持ちになってしまうことがあります。

 そんなときには、リーダーに昇進して張り切っていた頃の自分を思い出してみるといいでしょう。あの頃、何を思ってワクワクしていましたか? 「チームをよくしたい」「メンバーが成長する姿を見たい」「みんなで目標を達成したい」……。そんなことを、熱量高く想像していませんでしたか?

 もしかすると、いまチームに対してネガティブな感情を抱いているのは、リーダーになった当初抱いていた「チームをよくしたいという願い」が実現していないからなのかもしれません

 そのように「チームをよくしたい」という自分の原点に立ち返って、もう一度、新たな気持ちでメンバーたちと向き合っていくことを想像すると、心理的リソースが湧き上がってくるのを感じるのではないでしょうか?

5 制約を外して考える

【問い】何の制約もなかったら、どんなチームをつくりたいですか?

「でも、それって無理だよね」「現実的じゃないから」……。

 人は、そうやって、最初から「願い」を封じ込めているものです。

 だけど、たとえ実現可能性が低かったとしても、私たちがなんらかの「願い」をもつこと自体は自由なはずです。だから、制約をとっぱらって、「本当はどうしたいのか?」を考えてみてほしいのです。

「予算」も「時間」も「人手」も気にしなくていいとしたら? 上司や他部署の目を気にしなくていいとしたら? あなたは、本当はチームをどんなふうに変えてみたいと思っていますか? メンバーとどんな関係を築きたいと思っていますか? どんなプロジェクトに挑戦してみたいと願っていますか?

 制約を一旦忘れて考えることで、心の奥に眠っている「本当の願い」が姿を現すかもしれません

5分間だけ、「本当の願い」のために時間を使う

 ここまで、見失っていた「自分の願い」を取り戻すために有効な「5つの問い」について書いてきました。

 もちろん、これらの「問い」を通じて、「本当の願い」を発見したとしても、そのほとんどは現実的に叶えるのが難しいものだと思います。たとえば、「お互いに尊重し合って、高め合えるチームをつくりたい」という願いを再発見したとして、そもそもそれがうまくいかないから悩んでいるのです。

 でも、だからといってすぐにあきらめないでください。

 私がおすすめしているのは、今から5分間ですぐにできるアクションをひとつだけ決めて、それを実行してみることです。

 たとえば、「お互いに尊重し合って、高め合えるチームをつくりたい」という「本当の願い」を叶えるのが難しかったとしても、まずは5分間、「メンバーのよいところをひとつ見つける」とか、「そのメンバーにリスペクトを伝える方法を考える」とか、ほんの小さなアクションで構わないので、それを実行していただきたいのです。

 それが1回できたら、もう1回2回できたら、さらにもう1回と、1日のなかでそんな小さなアクションを積み重ねていくのです。

 もちろん、小さなアクションを起こしたからといって、すぐに劇的な変化が生まれるわけではありません。たとえば、実際にメンバーにリスペクトを伝えたとしても、思うような反応が返ってくるかどうかはわかりません。けれど、それでいいのです。大切なのは、その小さなアクションを続けることです。

 なぜなら、その一つひとつのアクションはほんの小さなものであっても、それを実行することで、1ミリでも2ミリでも、「本当の願い」には近づいているはずだからです。そうして小さなアクションを積み重ねているうちに、徐々に、あなたの心理的リソースが回復してくるのを感じられるはずです。

(本原稿は『なぜ、あなたのチームは疲れているのか?』を一部抜粋・加筆したものです)

櫻本真理(さくらもと・まり)
株式会社コーチェット 代表取締役
2005年に京都大学教育学部を卒業後、モルガン・スタンレー証券、ゴールドマン・サックス証券(株式アナリスト)を経て、2014年にオンラインカウンセリングサービスを提供する株式会社cotree、2020年にリーダー向けメンタルヘルスとチームマネジメント力トレーニングを提供する株式会社コーチェットを設立。2022年日経ウーマン・オブ・ザ・イヤー受賞。文部科学省アントレプレナーシップ推進大使。経営する会社を通じて10万人以上にカウンセリング・コーチング・トレーニングを提供し、270社以上のチームづくりに携わってきた。エグゼクティブコーチ、システムコーチ(ORSCC)。自身の経営経験から生まれる視点と、カウンセリング/コーチング両面でのアプローチが強み。