イオンモールが中国上陸を果たして17年、当初は沿岸部を中心に展開をしていたが、じわじわと内陸部に進出して、昨年からはそれを加速させている。

 この「沿岸部から内陸部へ」という出店戦略こそが、実は「中国からの嫌がらせ」をかわす「保険」となっているのだ。

 一体どういうことか順をおってご説明しよう。もともと中国では、北京や上海のある沿岸部と内陸部では経済格差が深刻な問題となっていた。

 中国共産党は2000年から内陸部の振興を図る国家プロジェクト「西部大開発」をスタートさせたのだが、あまりうまくいっていない。ロボットレストランや無人タクシーも走る海沿いの都市部と、貧困にあえぐ内陸部の農村の残酷なまでの経済格差は、海外メディアでもたびたび取り上げられる中国の「病い」だ。

 これは「共同富裕」を掲げる習近平氏としては是が非でも克服しなくてはならない。そこで昨年の中国共産党政治局会議でも「中国式現代化」のためには内陸部の振興はなくてはならない、と内陸部振興推進を宣言している。「西部」にはチベット自治区や新疆ウイグル族もあるので、習氏としては政治的安定のためにも内陸部経済を盛り上げなくてはいけないのだ。

中国、党政治局会議で内陸部振興の「西部大開発」推進を確認 「中国式現代化」重要と指摘(24年8月23日 産経新聞)

 さて、このような中国政府の「思惑」を理解すると、なぜ湖南省のイオンモールがつつがなくオープンできたのかという理由も見えてくる。

 もし今回の高市首相発言を受けて、オープンを延期せよというようなことになったり、地元政府が反日ムードを煽ったりするとどうなるのかというと、地域振興にとって大きくマイナスになる。

 実はこのイオンモールは国家級新区「湘江新区」の北部に位置しており、周辺には製造業やIT企業も立地して26年には高速鉄道も開通する。そこにできる巨大モールでは、映画館やアミューズメント施設のほか約260の専門店が入り、施設全体で2000人が働く。

 また、中国では深夜まで人々が活動をするということもあり、地元の名店などが入る「ナイトマーケット」や、深夜2時まで飲食店などが営業する「ナイトライフゾーン」というエリアも設けている。