そういう世界の現実を直視すると「中国依存から脱却して中国の嫌がらせを跳ね返せ!」というのは残念ながら理想論でしかない。今回のことで依存度を下げたとしても、貿易や原料、国内消費、つまり観光で少なからず中国に依存してしまうものだ。
特に日本のGDPの7割はサービス産業が占め、日本人のおよそ6割はサービス業で働いている。少子高齢化で急速に消費者が消えるこの国は、周辺国の消費者を無視できるような産業構造ではないのだ。
「じゃあ、いつまでもやられっぱなしじゃないか」と怒りでどうにかなる人も多いだろうが、そこがまさしく本稿で言いたかったことだ。
中国からいいように圧力をかけられないよう、こちらも中国に圧力をかけられる「弱味」を握っておくのだ。そのひとつのモデルケースとして、中国政府が推進する「内陸部振興」の鍵を握るイオンモールを今回、紹介した。
今回の問題もあって、日本国内では「日本企業はさっさと中国から撤退しろ」という声が多いが、筆者はそうなると逆にこれまで以上に日本への嫌がらせは激しくなっていくと危惧している。
中国経済に対する日本の影響力・存在感が小さくなればなるほど、中国にとって日本は「どんな嫌がらせをしてもいい国」になっていく。その逆で中国経済の発展にとって、日本が欠かせないものになればなるほど、中国は日本に対して迂闊(うかつ)なことができない。今、アメリカと中国はまさしくそういう相互依存の関係だ。
貿易や観光という「民間交流」こそが、実は国同士の衝突を避ける安全保障になると言われるのは、これが所以(ゆえん)だ。
相手の弱いところを攻めるのは「圧力」だ。今、日本が中国からやられている「観光自粛」はまさしくこれである。しかし、ちょっと視点を変えて、相手の弱いところに力を貸してやるとそれは「保険」になる。
もし関係が悪化して対立すると、一蓮托生なので自分も大きな不利益を被る。だから、なるべく決定的な衝突を避けるしかない。イオンモールが進める店舗戦略は、まさしくこれである。
人類の歴史を学ぶと、戦争や殺し合いの多くは「勇ましさ」が原因であることは明白だ。バカにされた。ナメられた。国家の誇りを傷つけられた――。勇ましい言葉が巷にあふれる今だからこそ「親中」と呼ばれるような人々の「衝突を回避する方法」から学ぶべきものもあるのではないか。








