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「どんなに優秀でも、一度に成果を出そうとするとうまくいかない」。福沢諭吉は、人生論を語ったエッセイ『福翁百話』のなかで、出世も人間関係もうまくいく「小出し」な生き方を説いている。同書から2話を取り上げ、現代にも通じる福沢の人生哲学に迫ってみたい。※本稿は、教育家の福沢諭吉著、奥野宣之訳『福翁百話』(致知出版社)の一部を抜粋・編集したものです。
「鼠捕る猫」であるならば
少しだけ爪を見せよう
「智恵は小出しにすべし」とは、古人の金言である。
すごい智恵をどんと出して、一度で世の中を驚かせようとするより、朝に夕に、物に触れ事に当たり、遅滞なく問題を処理して、スムーズに世を渡っていくのがいい。
「鼠捕る猫は爪を隠す」とも言う。隠すのはいいけれど、生涯ずっと隠したままで鼠を捕らなければ、爪はないのと同じである。
世間の若者は、ややもすれば英雄豪傑を気取るものだ。人の世の営みを気にかけず、愚鈍と言われても迂闊と評価されても馬耳東風。偉そうにして、「この件は私の得意分野ではない」とか、「その業務は自分の性格に合わない」とか言って、思うがままに好き嫌いをする。
こういうのは病弱な貴公子が、料理にぶつぶつ文句を言っているのと同じだ。おそらく若者としては、「この胸の中には大きな智恵があって、容易には披露しない」「使うときはドカンと使って、ドカンと成果を出そう」といった了見なのだろう。
しかし、残念ながら、機会が人を求めてやってくることはないのだ。自分の方から進んで機会を求めるのでなければ、そんなものには最後まで出会わないだろう。







