結果はどうか。参加者は1日平均1437歩も多く歩くようになった。10年間で糖尿病6200件、高血圧1万500件を予防し、4930人の死亡を回避できると試算されている。プログラム費用は約300億円だが、医療費削減効果はそれを大きく上回る。
これこそが、私が日本でも実現したいと考える仕組みだ。
マイナポータルを使って
国民の健康データを活用
日本には、シンガポールにはない強力な武器がある。マイナンバーカードとマイナポータルだ。
2024年12月から健康保険証は原則マイナンバーカードに一本化された。保有率は71%を超え、健康保険証としての利用登録も6550万件に達している。つまり、国民の健康データを一元管理できる基盤がすでに整っているのだ。
この基盤を使えば、以下のようなことが可能になる。
ジムの利用データを自動連携――月に何回通ったか、どんなトレーニングをしたか
ゴルフのラウンド数を記録――歩数だけでなく、スコアも健康指標として活用
犬の散歩ルートと距離を計測――ペットの健康管理と飼い主の運動を同時に促進
ウェアラブル・デバイスのデータ統合――Apple WatchやFitbitのデータも一元管理
これらの活動データに基づいて、税控除や地域で使えるポイントを付与する。健康的な生活を送れば送るほど、経済的メリットが得られる仕組みだ。
日本の高齢者の8.7%がフレイル(虚弱)、40.8%がプレフレイル(前段階)の状態にある。フレイルは要介護への入り口だ。しかし、適切な運動と社会参加で予防・改善できることが科学的に証明されている。
問題は、どうやって高齢者に運動してもらうかだ。
「健康のために運動しましょう」では人は動かない。でも「運動すれば税金が安くなります」「地域の温泉券がもらえます」となれば話は別だ。人間は合理的な生き物だ。明確なインセンティブがあれば行動を変える。
Vitalityという南アフリカ発の保険連動プログラムでは、参加者のステータスに応じて報酬が変わる仕組みを導入している。最上位のダイヤモンド・ステータスの会員は、入院率が10%減少し、医療費は14%削減された。平均余命は8年も延びたという。







