Photo by Masataka Tsuchimoto
この人のネーミングセンスは、人格の根っこの部分の真面目さからくるのか、あるいは実はお茶目に由来するのか、時折判断がつかなくなる時がある。かつて、中期経営計画に「はやぶさ」と名付けた時には周囲の一部は「本気か?」と訝しがったとのエピソードが実しやかに伝わるが、今回は「3L」だそうだ。開発で先行したアルツハイマー病治療薬「アデュヘルム」の蹉跌を踏み台に難産の末に承認を得た「レケンビ」、エーザイが自社創製した抗がん剤「レンビマ」、そして同じく自社オリジンの不眠症治療薬「デエビゴ」(一般名:レンボレキサント)。これらの伸長に目を細め、たまたまこの3剤が「L」で始まる点に諧謔味を感じ、造語してみたのだろう。
一世を風靡した「だんご三兄弟」のようなインパクトに欠けるのは惜しいとしても、3Lなる軽口が、11月5日のメディアを前にした25年第2四半期決算の発表の場で内藤晴夫CEOから発せられたということは、少なくとも同氏のなかでは隘路を潜り抜けられたという手応えと自信が宿ったのだろうと類推する。長かった、との思いが去来しているのではなかろうか。
振り返れば同社は、ブロックバスターとなった第1世代のアルツハイマー病治療薬「アリセプト」が10年11月に米国で特許が切れたのを境に、先の見えない低迷期に突入した。パテントクリフ克服のため、抗がん剤分野に進出すると同時に、海外のバイオベンチャーの買収を重ねた。だが、内藤CEOを以ってしても、新規化合物がクスリとしてものになるまでのリードタイムは短縮できなかった。
10年3月期にピークをつけた8032億円という売上高は、10年代央には5000億円台半ばをさ迷い、17年3月期には5391億円まで落ち込んだ。幸い、18年3月期以降は米メルクとの戦略提携にも支えられ、増収へと転じることができたものの、仮にサラリーマン社長であったら、株式市場からの強圧を前に何人もの首が飛んでいた展開だった。しかし実際は、周知の通り“創業家の重み”という数値化・定量化が難しいプレミアムに加え、外部からは韜晦とさえ受け取れるような内藤CEO自身の信仰心に近い「信念」が跳ね除けた。もちろん業績回復の背後では、希望退職の実施や遊休資産の売却といった血も少なからず流した。







