
トキ、「まともなひとが出歩く時間じゃない」時間に帰宅
「何遍でも何十遍でもお話しますけん」「怪談は日本の人も古い。時代遅れ。気味が悪いと嫌がられることが何遍もありましたけん。聞いていただけるのがうれしくて」
トキがはにかむように言うと、ヘブンが「私好きです」。怪談のことである。
トキは再び『鳥取の布団』を語りだす。今度はときおり、動作もつけながら語り続けた。
何か染みこませるように耳を澄ますヘブン。
2ターンめの終了。
「わかりました?」とトキが聞くと、「半分。悲しい。とても悲しい」とヘブンは悲しい話であることは理解していた。でも、彼の解釈はちょっと違った。
「でも、兄、弟、ずっといっしょ。よかった」
家族と縁の薄いヘブンだからこそ、そう感じるのだろう。トキも「そうですね」と肯定する。
『鳥取の布団』は貧しい者が貧しさゆえ、悲劇的な結末を迎えるお話で、そういう話には『マッチ売りの少女』や『フランダースの犬』などがある。どれも悲劇的な最期ではあるが、亡くなったおばあさんに迎えに来てもらう夢を見るマッチ売りの少女、見たかった絵を見て愛犬パトラッシュといっしょに亡くなるフランダースの犬、雪が布団のように兄弟を包む『鳥取の布団』とどれも情けが感じられる終わり方になっている。
「スバラシイ。アリガトウ」とヘブンはご満悦。
「では――」
「もういっぺん」とふたりはユニゾンし、ふふふ、と笑う。すっかり気が合っている。まるで映画『花束みたいな恋をした』の麦(菅田将暉)と絹(有村架純)が出会ったばかりの頃のようである。
あのふたりは悲しい結末を迎えたが、ヘブンとトキはタイトルバックみたいになるから安心。
そして夜遅く、トキは満ち足りた気持ちで、スキップしながらヘブン宅を出る。
「くーくー」と何か思い出して、ひとり盛り上がっていると、なみ(さとうほなみ)が心配して声をかける。
「まともなひとが出歩く時間じゃない」と。
トキは「布団」「布団」と要領を得ないことを言い、なみは「布団」から違うことを想像しているようだ。
「布団」というワードは松野家一同も心配させる。







