「丁寧な人=優しい人」ではない
若手面接官が感じ取った不穏な空気
ホテル業界には、応対スキルが極めて高い人材が多い。
声のトーン、姿勢、目線、表情、言葉の選び方――これらは長年の訓練で磨かれたものだ。
しかし、心理学では「ポライトネス・バイアス」と呼ばれ、必ずしも「丁寧な人=優しい人」ではないことがわかっている。
丁寧さはあくまで“スキル”であり、性格とは別物だ。今回の男性は、まさにその典型だった。
質問への返答は完璧だ。面接では模範解答を、流れるように紡ぎ出す。
「住民第一」「迅速で丁寧な応対」「クレームには誠心誠意向き合う」――どの言葉も美しい。
だが、若手面接官は、ある種の“作られた香り”を感じ取っていた。
男性は、ホテル業界でサービススタッフ→フロント→副主任と階級を上がってきた。
ただ、ホテル業界の一部では、今も次の価値観が根強い。
・ 階級の明確化
・ 上意下達が基本
・ ミスは「犯人探し」で決着
・ こじれたクレーム対応は“強引に黙らせる”
・ 現場の怒りを部下にぶつける構造
あくまでも業界のほんの一部に過ぎないが、こうした環境に10年以上身を置くと、心理学的に支配性(Dominance)と「敵味方思考」が強化されるといわれている。
実際、男性はクレーム対応についてこう語っていた。
「理不尽なお客様も多いんですよ。いかに筋を通して矛盾を突くかが勝負なんです」
「それでも言いがかりを続ける場合は、“毅然とした対応”をします。場合によっては、警察を呼ぶ場合もあります。そうすれば、相手は自然と引き下がるものです」
ベテラン面接官は「頼もしい」と受け止めたが、若手面接官だけは、この一連の語りに不穏な空気を感じていた。
「この人は“最初から相手を対等に見ていない”のでは……?」







