男性は迷わず答えた。

「そういえば、後輩に言いましたね。シフトが急に穴あいた時、頼んだらすぐ埋めてくれまして。ああいう“わかっている後輩”だと仕事が楽ですよ。場を読めない人間だと、こうはいかないので」

「そうそう、それと、部下が結果を出したときですかね。上司である私の指示のとおりに、きちんと実践してくれた際には、感謝の気持ちを率直に表すことにしているんです」

 この瞬間、若手面接官の違和感は確信に変わった。

 次の2つの危険信号が、短い回答に凝縮されていたからだ。

危険信号(1)
「ありがとう」が“上下関係の中”でしか出てこない

 普通は、家族、友人、近所の人、同僚、趣味の仲間などさまざまな対等関係の「ありがとう」が挙げられる。

 しかし彼の世界には、“後輩か、指示に従う部下”しか存在していない。これは支配性が高い傾向を示しているといえる。

危険信号(2)
感謝の理由が「従ったかどうか」

「頼んだらすぐ埋めてくれた」「わかってる後輩」「指示のとおりに実践してくれた」――つまり、相手が“自分の指示に従った”ことが感謝の基準となっている。

 これは心理学でいう道具化(Instrumentalization)である。

 他者を「自分の作業を進めるための存在」として扱う傾向だ。こうした人物は、部下を潰しやすい。

若手面接官は
採用での“最大の地雷”を回避した

 質問は柔らかく穏やかで、表向きは「人柄確認」の雑談に見える。

 だが、男性の回答は、「対話重視のマンションコンシェルジュには絶対に向かない人格」――つまり、パワハラ気質があることを明確に示していた。

 結果、男性は不採用となった。

 若手面接官の懸念を役員がくみ取ってくれたからだ。

 ベテラン面接官は驚いたという。

「こんなに丁寧で優秀そうな人が…?」

 その言葉に、若手面接官は静かに首を振った。

「丁寧さはスキルで着飾れますが、真の気質は隠せません」

 コンシェルジュ業務は対等な関係で向き合うことが求められる。

 住民のみならず、部下を手下のように扱う人、支配しようとする人は、トラブルを呼び込み、離職や苦情の温床になる。