例えば、あなたが毎朝飲んでいる少し高価なコーヒー。あるいは、週末ごとに出かけるお気に入りのレストラン。経済的には毎日続けることもできるかもしれません。しかし、あえてそれを“毎日しない”ことで、「ご褒美」のような意味づけを持たせることができます。

「大きなプロジェクトをやり遂げたとき」「昇進したとき」「1週間をやり切った金曜日」──そのような節目に、自分自身へ贅沢を“先伸ばし”する。その先に待つ満足感と達成感は、何気なく日常の中で消費されてしまう贅沢とはまったく異なる輝きを放ちます。

　コーヒー、ランチ、旅行、洋服、美術館、美容院──どれも同じです。今すぐできることだからこそ、“あえてしない”。そして自分の努力や成長、生活水準の変化に合わせて、一つ一つ段階的に引き上げていく。そのプロセスが、自分の人生に向上実感を与え、日々を豊かに彩ってくれるのです。

感動を守ることが
人生を豊かにする

　私が執事として長年お仕えしてきた超富裕層の方々が教えてくれたのは、「幸福とは、今の自分が昨日より一段上がったと感じられること」だという事実です。そしてその幸福感を守るためにこそ、彼らは“贅沢の先延ばし”という美学を実践しているのです。

　感動は、余白の中に生まれます。習慣化された贅沢の中では、人は感激できません。だからこそ、何を食べるか、どこに行くか、どんな体験をするか──その選択の“タイミング”が、人生における満足の深さを決定づけるのです。

　私たちは、日々の中で小さな選択を繰り返しながら生きています。その一つひとつが、未来の自分の幸福感をどう設計するかに直結しています。感動できる心を保ち、人生の中に“特別な瞬間”を育てていく。それこそが、豊かさの本質ではないでしょうか。