柏原が唯一していたのは、コースを頭に入れることだった。

「これがいちばん重要なことで、寝る前にいつもコースで走る自分をイメージトレーニングしていました。何でもそうですが、自分が戦う場所を知らないのは戦う以前の問題です」

自分のパフォーマンスに
集中できるかが攻略の鍵

 それでもスタートしてから最初の5キロメートルでは、一応、タイムを確認した。

 これはその日のコンディションや足の軽さを確認するためで、タイムが速いか遅いかは、気にしない。

 4年時に区間新記録を出した際は、最初の5キロメートルは15分05秒で入り、過去いちばん遅かった。遅いと普通は焦ってしまうが、柏原はそれよりも自分の感覚を大事にしていた。

「前に人がいようが後ろから追ってこようが、関係ないですね。スタートしたら自分の走りに集中し、徹していけばいい。もちろん、1区とか2区とか競り合うシーンが多いところは他選手の様子を気にしないといけないです。

 でも、単独走になると、自分のパフォーマンスを最大限に発揮することが重要なので、そう考えるとほかの選手のことを考える必要はないんですよ」

 とはいえ、人が前にいれば、追おうと本能的に動いてしまうのがランナーの性である。また、襷を受け取る際、タイム差がなく、強い選手が近くにいれば、どうしても緊張してしまう。

「僕の場合は、朝起きた瞬間に今日、走れるかどうか見えています。だから、とくに緊張を解くことも、レースに臨む際のルーティンもありません。どうしても緊張してしまう場合は、緊張して当たり前と思ったほうが楽になります。緊張すると余計なことをしがちなので、緊張していることをどれだけ認められるのか。この緊張したなかで自分がどれだけ準備ができているのかというのを把握することが大事です」

真剣勝負のレースで
「3位でいいとかありえない」

 また、柏原は、山を走る際は5区にとらわれてはいけないという。

「箱根の希望区間を聞かれて、『5区を走って山の神になりたい』という選手がけっこういるじゃないですか。そういう人は、発言してしまうことで自分に大きなプレッシャーをかけているんです。注目され、緊張し、力んでしまって結果が出ない。