そのため、サダ課長が何度も口頭やメールで指導した履歴がある。口頭での記録はないが、メールの内容は業務指導の範囲を逸脱したものではない。

 課長はヒアリングにおいて、自分も余裕がなく、異動してきたばかりのミナミさんへの配慮が足りていなかったことを認めました。また、離席したのは開始時間が迫っていた会議に出席するためで、ミナミさんに対して他意はないこと、自分の不適切な言動について謝罪したいと伝えてきました。

 ハラスメント相談室は調査にあたって、どのような発言がどのような状況下でなされたのかの事実を明らかにする必要があります。その事実認定をもとに、ハラスメントとして認定するかを検討するからです。

 会社は「サダ課長からミナミさんに対する対応は不適切であった」と認めましたが、本人が強く反省していること、ミナミさんは何度も指導を受けているのに改善できていないこと、初歩的なミスを繰り返すこと、などの課題があったこともあり、課長がミナミさんへ直接謝罪することを条件に、懲戒処分は行わないことにしました。

 これは調査中、課内からサダ課長をかばう声が多かったことも起因しています。

 パワハラの認定には「平均的な労働者の感じ方」が考慮されますが、今回は客観的に見て、「就業する上で、看過できない程度の支障が生じたとまでは言えないものだった」と言えます。ミナミさん本人は強いストレスを感じていますが、パワハラにはあたらないというもので、この事例には「ぬるい職場」の特徴がよく表れています。

不機嫌な人の言動は
職場に緊張感を漂わせる

<ケース2>いつもイライラしていて相手を萎縮させる同僚

 うちは従業員数200名弱の食品メーカーで、近年、DXを掲げて情報システム部を立ち上げました。立ち上げメンバーのキノ先輩は前職もIT関係で、知識が豊富です。システムトラブルへの対応も実績が多く、なにかトラブルがあると、先輩に確認しないと進めないこともあります。

 でも、先輩はいつも不機嫌なんです。話しかけると「あ?」といったり舌打ちをしたりで、話しかけられることが迷惑という態度です。質問しても明らかに面倒な顔をしたり、手がかかる案件のときは大きな音を立ててドアを閉めたり、動作の音を聞こえよがしに大きくしたりします。