先輩をイラつかせないようにいつも気を遣っていて職場に変な緊張感があり、働きにくいです。先輩の態度はパワハラではないのでしょうか。ユウジ(20代・男性)

 キノさんのように不機嫌を態度に出すことで周囲を不快にさせたり、萎縮させる言動をすることを「不機嫌ハラスメント(フキハラ)」と言います。フキハラは法律用語ではなく、かつそれが直ちに職場トラブルに発展するとも言えないのですが、この事例のようにパワハラとして捉えられることもあります。

 キノさんの言動は、パワハラの定義である「1 優越的な関係に基づいて(優位性を背景に)行われること、2 業務の適正な範囲を超えて行われること、3 身体的もしくは精神的な苦痛を与えること、または就業環境を害すること」に該当する可能性があります。

聞き取り調査で先輩の
不機嫌な理由が判明

 後輩は、キノさんの知識や経験に頼らなければ業務を円滑に行うことができない関係にあり、舌打ちや威嚇のような言動は、業務の適正な範囲とは言い難いものです。なぜなら、キノさんに萎縮して、職場環境が悪化しているからです。

 しかし、「労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じているか」の点では、やや疑問があります。キノさんの機嫌をうかがいながら仕事をしているというのは健全な環境ではありませんが、人格否定や直接的な暴力行為などは行われておらず、直ちにパワハラと断じられるほどのものではないと考えられるからです。

 ユウジさんらの相談を受けた情報システム部の部長は、キノさんにヒアリングをしました。キノさんは、不機嫌を態度に出している自覚はないこと、部署内で自分の残業時間が多いことに不満があること、自分ばかり残業が多いのは、他の職員の業務知識が足りないからだと思っていることがわかりました。

 事実確認の結果や部長からの報告を踏まえて、会社は今回の相談をパワハラとは認定しませんでした。ただ、キノさんに口頭注意を与えるとともに、研修や学習の機会を提供することにしました。

 今回の事例では、キノさんの業務量が明らかに偏って多いことも問題になりました。他の労働者が月20時間以内の残業であるのに対し、キノさんは50時間を超えていたのに、誰も疑問を持っていなかったのです。管理職者は、こうした業務量の偏りもハラスメントの温床になり得ることに注意すべきです。