しかし、精神障害が労災にあたる場合は、業務による心理的負荷が「強」と認められるかどうかという基準に照らして判断されます。この判断には「業務による心理的負荷評価表(注)」を使います。

 判断の手順は、最初に生死にかかわる病気やケガ、強姦のような極めて強いストレスがかかる状況(特別な出来事)があるかどうかを確認します。特別な出来事がないのであれば、個別の出来事について、心理的負荷がどの程度かを確認していきます。

まず優先すべきなのは
「頑張りすぎている自分」

 例えば、評価表の具体例として「達成困難なノルマが課された」には、次のようなものが挙げられています。

・客観的に相当な努力があっても達成困難なノルマが課され、達成できない場合は重いペナルティがあると予告された→心理的負荷「強」

・ノルマが達成できなかったことにより、ペナルティ(昇進の遅れ等を含む)が課せられた→心理的負荷「中」

・同種の経験等を有する労働者であれば達成可能なノルマを課せられた→心理的負荷「弱」

 同期社員にノルマを達成している人がいる状況、また仮にペナルティがないというのであれば、コウタさんにとってノルマが過大なものであるとしても、直ちに心理的負荷が「強い」とは言い切れません。もっとも、コウタさんの場合はノルマに加えて朝礼での叱責もあるため、単純に基準にあてはめて判断することは早計です。

 類似の例に、営業成績の未達成を理由に「辞めろ」「給料泥棒」などの暴言を日常的に受けていた部下が適応障害を発症したというものがあります。裁判所は「業績達成を名目とした人格否定的な叱責」を不法行為と認定し、会社と上司に損害賠償を命じました(日本ファンド事件 東京地判平成22年7月27日)。上司の発言を記録しておく他、病院を受診したときは診断書を取得し、保管しておくとよいでしょう。

(注)…心理的負荷による精神障害の労災認定基準の改正について(基発0529第1号)