アフェクトのすごいところは、伝染してしまうことです。どんなに大変な仕事でも、笑顔でがんばっている同僚がいると、ほかのメンバーも「自分もがんばらなくちゃ」と思うものです。誰かのポジティブアフェクトは職場の空気をいい方向に変えてくれるのです。

 もちろん、その逆もあります。ギスギスした態度をとる人がいれば、たちまちオフィスにはネガティブアフェクト(編集部注/なんとなく嫌い、イラッとする、ちょっと苦手など、人を後ろ向きにさせる感情)が充満します。

上司のいい空気が
部下にも伝染する

 そう考えると、働くことへのポジティブアフェクトを重視すべきは若者以上に上司だと思います。いい意味でも悪い意味でも、職場の空気は上司がつくっているからです。

 よく「うちの部下は、言われたことをやらない」「部下がいつまでたっても成果を出せない」などとグチる人がいますが、部下のやる気を引き出すことは上司の重要な仕事です。上司に理解してもらえない、何をどうやればいいか適切な指導がない、そんな状態だから「やらない」「できない」のではないかと私は思います。

 部下の成果が上がらないのは上司のせい――これは私の哲学であり、座右の銘です。

 そう思えたのは、私が大学3年生で行動経済学の研究室に入ったときのこと。担当教授は行動経済学の世界で非常に有名な人物で、アフェクト・ヒューリスティックの第一人者です。一方で、私は行動経済学のイロハを学び始めたばかりで英語も流暢ではない留学生。

 にもかかわらず、教授は私に「きみはどう思う?」「どうすればいいだろう」と意見を求めてくれるのです。感激しました。もっと勉強しよう、教授に少しでも役立つアシスタントになりたいと心から思いました。

 それを私は今、実践しています。部下の意見を聞き、それがよければもちろん採用しますし、私の腹案よりも少し劣るくらいであれば部下の案を採用します。採用されれば「がんばろう」と思えますし、成長につながります。私の案を使うよりも、もっと大きなリターンが期待できるのです。