「行動経済学」について理解を深めることは、様々なリスクから身を守るためにも、うまく目的を達成するためにも、非常に重要だ。『勘違いが人を動かす──教養としての行動経済学入門』を推薦する、東京大学大学院経済学研究科教授の阿部誠氏は、著書『大学4年間の行動経済学が10時間でざっと学べる』などで最先端の知見をわかりやすく紹介している。私たちは仕事や日常生活に行動経済学をどう活かせばよいのだろうか? 阿部教授にお話しを伺った。
「結論」ではなく「理由」から先に伝える
「できる人」は、行動経済学を自然と仕事で使っていることがあると思います。
たとえば、ビジネスでは「結論から言いなさい」とよく言われます。しかし、本当に結論から言ってしまうと、相手を動かせないことも多々あるのです。
実は「結論」ではなく「理由」をまず相手に伝えることで、自分が思ったように相手を動かせる確率が高まります。
『勘違いが人を動かす──教養としての行動経済学入門』でも紹介された有名な実験に、「コピー機を使いたいので、コピー機を使わせてください」と言うだけで、91%の人が割り込みを許し、順番を譲ってくれた、というものがあります。
面白いのは、理由が「コピー機を使いたい」でもいいというところ。
「コピー機を使いたいので、コピー機を使わせてください」は、よく考えると「当たり前」すぎです。順番を譲る理由としては弱い気がしませんか?
それでも、多くの人が順番を譲ってしまったのは、理由が論理的かどうか、正しいかどうかではなく理由を言われたときにパッと瞬間的にヒューリスティクで判断してしまうからです。
何かしらの理由があることで「順番を譲る」という自分の行動を正当化できる。自分の行動に一貫性を保てるという部分があります。
「人を動かすときは、理由を先に伝える」ことを意識してみてください。
「みんながやっている」とうまくアピールする
もう一つ、仕事ができる人は「みんながやっている」ことも意識的に伝えていると考えられます。
「みんながやっていることに、自分だけ乗り遅れたくない」という心理が働き、相手を動かすことができるからです。これは「同調効果」や「ハーディング現象」と呼ばれます。
ただし、「みんながやっているなら、自分はやりたくない」と思う人もいるでしょう。
「他の人とは違うことをしたい」と思う人は、スノッブ効果が強く影響しています。
「みんながやっている」と伝えることが逆効果になるのです。
そのような人には「まだ、誰もやっていない」と伝えるほうがいいでしょう。
相手の性格などを見極めたうえで、その人に合った情報を伝えることが大切です。
(本稿は『勘違いが人を動かす──教養としての行動経済学入門』の発売を記念し、東京大学大学院経済学研究科教授 阿部誠氏へのインタビューをもとに作成しました)