部下を叱りつけても
ネガティブアフェクトが生まれるだけ
部下を認め、ほめることも重要です。特にクライアントの前で部下をほめます。日本人は身内をほめないといいますが、ほめて悪いことなどありません。部下のモチベーションも上がるし、クライアントに「この社員は若いけれど信頼されているんだ」と印象づけることができるからです。
むしろ叱ったところでネガティブアフェクトが出てくるだけで、逆効果です。部下が力を発揮できないことがあったら、原因とその対策法をともに考え、成果を出せるようにするのが上司の仕事です。
日本は「給料をもらっているんだから、がんばって当たり前」という考えがいまだに主流ですが、ポジティブアフェクトをもって働いてもらうほうが仕事の成果は上がりますし、定着率も高い。ぜひ部下を「職場に手伝いに来てくれたボランティア」と考え、「いつもありがとう」と思いながら接するように心がけたいものです。
プレゼンの成功率を上げたいなら
発表の順番は最初か最後がいい
以前、アメリカの私の会社で翻訳を担当するスタッフを募集したときのことです。数名の応募者を面接したのですが、私は最初に面接した人のことを「とてもいい!」と感じました。一通り面接が終わった時点で、私は「やっぱり最初の人だ。この人しかいない」と心を決め、人事スタッフに連絡しようとしました。
でもその瞬間、「待てよ」ともう1人の私の声が聞こえました。「相良奈美香、行動経済学者として、その選択でいいの?」と。行動経済学には「初頭効果」という理論があります。人は最初に見たものを「いい」と感じてしまうことが多いのです。
私はハタと気づきました。「いい」と感じたのは、システム1の仕業かもしれません。「待てよ」と言ってきたのは、システム2(編集部注/人間の脳は情報処理をするときに、直感的で瞬間的な情報処理のシステム1と、理論的で注意深いシステム2の2つの思考モードを使い分けていると、ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンは主張した)。初頭効果を疑った私は、即決を避けて翻訳の実技試験を行いました。その結果、晴れて採用されたのは、私が最初に「いい」と感じた人とは別の人だったのです。やはり初頭効果だったというわけです。







