日独両国の産業構造に詳しいドイツ人は、ほとんど全員が声を揃えて、「日本の中小企業の技術力はドイツに遜色ない。だが、ドイツの中小企業と比べて決定的に違うのは、国際化していないこと」と言う。

 だが、詳しく分析してみると、日本には国際化できる実力のある中小企業は多い。実力はあるが、外国人が怖い、外国が怖いと思いながら、外国に出て行っていないのだ。

 テンプル大学のステファン・リッペルト教授は、2000年頃に来日し、日本の事情がほとんどわからない中で、東洋経済新報社の『会社四季報』をもとに、日本の隠れたチャンピオンを数えたという。

 だが、同書ではシェアなどのデータが不十分であり、メールで直接問い合わせたり、友人から企業を紹介してもらうなどの作業を経て、2006年に作業を終えたという。リッペルト教授が数えた日本の隠れたチャンピオンは約200社だった。

 日本の研究者の中には、日本の隠れたチャンピオンはもっと多いはずだと主張する人もいる(たとえば、前出の吉村研究員は400~500社と主張している)。

 筆者はステファン・リッペルト教授から直接説明を聞いたが、大企業の一事業所をカウントしていたり、『会社四季報』に載っていない会社は在日ドイツ人の友人に教えてもらうしか手段がなかったことなどを知り、あまり正確な作業ではなかったという印象を受けた。

 ハーマン・サイモン氏の元同僚である同氏は、中小企業の研究者ではないが、もっと時間をかけて丁寧に数えれば、日本の隠れたチャンピオンはもう少し多いのではないかと思われる。

隠れたチャンピオンが
地元密着を貫く理由

 ドイツの隠れたチャンピオンは、ほとんどが創業当初からの地域に立地し続け、地域雇用を守っている。そのため、全国に広く分布している。反対に、日本では企業が育つと大都市に移転する傾向がある。

 インタビューしたドイツ人の多くからは、企業が場所を移転すると競争力が失われることを経営者はよく知っている、だから移転しない、と回答が返ってくる。