この事実を説明する仮説として次の3つがある。

 第1は、ドイツ人は自分が生まれ育った地域を愛しており、自分の家族が何世代にもわたって住み続けているので故郷への思い入れが強い。都会の大学を卒業しても、故郷に帰って働きたいと願い、古くからの友人を失いたくないと思っている。

 そのため地元の企業に家族何世代にもわたって勤め続け、企業と家族が運命共同体になっている。その地域に住む住民らがみんなで力を合わせて会社のために頑張る構図になっている。

 第2は、ドイツの中小企業では家族所有が多く、約95%がそうだが、所有と経営の分離が行われており、若くて優秀な経営者が企業を切り盛りしている。所有者は、地域に住んでいて、都会に移転することにほとんど同意しない。

 第3は、企業が成長する過程で、周囲に立地する企業や研究機関との間で協力連携のネットワークができ上がり、一種の企業グループが形成されるため、ネットワークとして大企業並みの競争力を有することが可能になる。もし移転すれば、そのネットワークが切れ、せっかくの競争力が失われてしまう。

 これは、日本の多くの中小企業が、系列の傘下にあり、他の企業や研究機関と協力連携のネットワークをもたず、1社のみで親会社からの注文をさばくことに勤いそしんでいる「たこつぼ」的な姿とはかなり異なっている。

 ドイツでいろいろな人と議論をしていると、ほとんどの人は、隠れたチャンピオンは第1と第2がバックボーンにありながら、その成長要因として第3の条件が大きく働いているだろうという結論に行きつく。