鉄鋼業界も苦境が鮮明になってきた。
いわゆる“リーマンショック”以降の昨年10月でも、日本の鉄鋼メーカーは高級鋼材が中心のため、業績への影響は軽微といわれていた。5年分の受注を抱えた造船業などでの旺盛な鋼材需要もあって、一部製品では値上げ交渉が行なわれていたほどだ。
ところが、年末にかけて事態は急激に悪化、ついには各社が大幅減産に追い込まれている。
たとえば業界トップの新日本製鐵は2009年1~3月期の単体での粗鋼生産量が、四半期ベースでは会社発足以来最低となる前年同期比41%の減産。
この四半期だけで504億円の連結経常赤字に転落する見込みだ。通期でも、昨年11月時点では200万トンと見込んでいた今年度の減産幅が420万トンに倍増する見通し。
このため、同社は全国で9基ある高炉のうち2基を休止せざるをえなくなった。同社の粗鋼生産量が上期には半期ベースで過去最高を記録していただけに、その落差は激しく、衝撃もひときわ大きい。
他社も同様だ。高炉の休止に加えラインの停止も実施しているJFEスチールは、グループ企業が生産する野菜を配る株主優待さえも廃止。神戸製鋼所は期末配当の中止や従業員の一時帰休を実施するなど、フル操業から一転して苦境が目に見えるかたちとなってきた。
ここまでの急転悪化の原因は、自動車や建設などの需要減少に加え、旺盛な需要に合わせてフル操業することで積み上がった在庫の調整、原料価格高騰に合わせて高値となっていた鋼材価格の下落を見越したユーザーの買い控えが、追い打ちをかけたからだ。
世界的な鉄鋼需要減少から、今年度だけでも約3兆円のコストアップ要因となった原料価格の大幅下落が確実視されている。
鋼材需要の回復には自動車や建設需要の回復が必要だが、業界では、原料価格が反映されて春以降の鋼材価格が下落し、それによって買い控えの解消が起き、在庫調整も終了することで“異常事態”は収まるだろうと望みを託す声は多い。
(『週刊ダイヤモンド』編集部 鈴木 豪)