当時、私は50代半ばで、俳優としても揺れる時期を過ごしていたと思います。仕事をやめるか悩みました。でも結果として母の介護があったから、そこを乗り切ることができたのではないかとも思います。

市毛良枝さんの母は動物が好きで、90代から犬と猫と暮らしていた母は動物が好きで、90代から犬と猫と暮らしていた(提供:市毛良枝さん)

介護付き老人ホームを退所した理由

――その後、市毛さんのお母様は96歳の時に、介護付き有料老人ホームに入居します。その背景には通い慣れた施設が大きく変わったことや、老いに伴い転倒のリスクが増大したことがありました。

 デイサービスやショートステイでお世話になった施設のスタッフと母は長年にわたり、いい関係を築いていました。施設が変わることで、人間関係をゼロから作り直す負担をかけたくないと思いました。そんなタイミングで、母も生活全般に不安を感じるようになったようで、介護付き有料老人ホームの入居を考えるようになりました。

 見学をして、リハビリを重視する方針を聞き、考えた上で入居したのに、実情は全く違いました。母には食べられないような固さの食事が出されていたり、日常的なトラブルを隠蔽されたり。仕方がなく、私が毎日のように施設に通うようになりましたが、不信感は募るばかり。約1年で退去を決めました。

 退去しても行き先はなく、衰えた体力を戻さなくてはならない。約1年病院を転々としました。再び自宅介護に移行するのも大変です。高齢者の暮らしは、介護ベッドほか設備が必要です。施設入居のために解約したものを復活させなくてはならないけれど、その前に体を元に戻さなくてはなりません。病院を転々としながら次の体制を整えている時、偶然軽い脳梗塞を発症したために、長年お世話になった病院に戻って体力を整えることもできました。

 そこでじっくり考え、再び覚悟を決めて在宅介護の環境づくりをしました。

再び自宅での介護、そして90代の母とオレゴンや韓国へ

――こうして自宅に帰ってきたことが、98歳の時に行った、4回目のオレゴン旅行や、99歳の韓国への旅につながったのですね。

 介護付き有料老人ホームで、体重が27キロまで落ちていたので、体重を戻すところから始め、母は本当にリハビリを頑張りました。