4回目のオレゴンへの旅は、現地のチャリティイベントに私が出るので、母を伴うことになったのです。前編で「現地での死も想定し、あらゆる準備をした」と言いました。白い粉状のとろみ剤や航空機制限に引っかからないように小分けにした介護食などを持ち込み、決死の覚悟で渡米したのです。

「空気を読むのは百害あって一利なし」90代の母を自宅に引き取り介護と仕事を両立した、俳優・市毛良枝の覚悟市毛良枝(いちげよしえ) 文学座附属演劇研究所、俳優小劇場養成所を経て、1971年にドラマ『冬の華』でデビュー。以降、テレビ、映画、舞台、講演と幅広く活躍。40歳から始めた登山を趣味とし、93年にキリマンジャロ、後にヒマラヤの山々にも登っている。環境問題にも詳しく、’98年に環境庁(現・環境省)の環境カウンセラーに登録。第7回環境大臣賞(2025年市民部門)受賞。また、特定非営利活動法人・日本トレッキング協会の理事も務める。最新出演作は映画『富士山と、コーヒーと、しあわせの数式』(W主演)、NHKBSプレミアムドラマ『終活シェアハウス』。

「そこまでしなくても」と言う人もいたと思いますが、母は行きたがっていた。その願いを叶えただけです。現地で母は私の朗読を聴き、たくさんの刺激を受けて、饒舌になり、見違えるように元気になりました。旅は人を元気にすると改めて思いました。

 介護に正解はありません。ただ、母は楽しく人生を生きようとした。今、介護しながら仕事をしている人にお伝えすることがあるとすれば、まずあなた自身の幸せは何かと考えることが大切ではないか、という視点です。その幸せがはっきりわかれば、そこに向かってあらゆる力を注いで進む。それを見た人が味方になってくれることもあります。それが人の輪を広げ、人として強くなることにつながっていくと思います。

 市毛さんはインタビュー中に「介護に正解はない」「今も後悔は多い」と何度か話していた。ただ、介護の13年間は苦しみだけでなく、楽しいことや学びや成長も多い。年末年始、親と会う人は、今後のことを考えつつ、将来を模索してはいかがだろうか。

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