日本社会にはびこる不満の空気が
トリックスターを切望している

 ここで注目すべきは、ガーシーのようなキャラクターが一定の支持を集めた事実とその社会的な背景だ。『ガーシーch』が開設から40日足らずで登録者数が100万人を突破しただけでなく、2022年の参議院選挙で「NHK党」(当時)から立候補して当選したことが事の重大性を示している。

 日本で立ち上がったポピュリズムの波は、与野党を含めた既存政党の「変わらなさ」への反動である。この「変わらなさ」は、古い価値観と既得権益の上に形作られており、そのような社会に対する不満と憤りが渦巻いている。

 作家の伊藤喜之は、秀逸なノンフィクション『悪党――潜入300日 ドバイ・ガーシー一味』(講談社)で、ガーシーが東谷個人の力だけで生まれたわけではなく、実に多くの関係者の力が作用していることを浮き彫りにしたが、彼がガーシーを「トリックスター」と評したことは非常に重要である。

「日本社会に何らかのルサンチマン(遺恨)や情念を抱える『手負いの者たち』が東谷のそばに結集し、暴露ネタの提供から制作まで陰に陽にさまざまなかたちで手を貸しているという意味合いもある。彼ら『ガーシー一味』が総がかりで生み出してきたのが、ガーシーCHであり、『ガーシー』そのものなのだ」(同前)と。

 トリックスターとは、善と悪、賢者と愚者といった両義性を持つ秩序破壊的なアンチヒーローのことで、物語に新たな展開を作り出す役目がある。ここからもっと深い示唆を読み取ることができる。

 実際、東谷の周辺だけではなく、日本社会全体を薄いガスのようなルサンチマンが覆っている。前述の既存社会への不満と憤りがその発生源となっているのだ。

 ガーシーは暴露系YouTuberとして、トリックスター的な機能を果たしたといえるが、これはもっと大きな事件においても観察できる構図である。例えば、安倍晋三元首相を殺害した山上徹也被告も、実質的にトリックスターのような役回りになったと捉えられる面がある。事件後、山上被告への同情とともに彼を英雄視する風潮が現れたことは、政治不信が相当根深いものであることを表しているだけでなく、既存社会の閉塞状況を打ち壊してくれる出来事を待望する心理をも浮き彫りにした。