テスラの電気自動車Photo:PIXTA

テスラやスペースXを経営する実業家イーロン・マスクは、2022年版『フォーブス』世界長者番付で、2位に大差をつけて1位に輝いた。今や誰もが知る世界一の実業家で、その言動は常に注目されている。特に日本で話題になったのは、Twitter買収騒動や「日本消滅」というワード。一度やると決めたら必ず成し遂げる行動力や、炎上・誹謗中傷を意に介さない鋼のメンタルから、彼の仕事術が見えてくる。桑原晃弥『イーロン・マスク流 「鋼のメンタル」と「すぐやる力」が身につく仕事術』(プレジデント社)を一部抜粋して解説する。

失敗は次に進むためのステップ

「アイデアがあればすぐに実行する」ことの大切さは理解していても、いざ実行となると、なかなか踏み切ることができない理由の一つは「失敗への恐れ」があるからだ。

 例えば、上司にアイデアを提案して、「やってみろ」と言われても、「失敗したらどうしよう」「失敗して責任を取らされるのは嫌だ」と思い悩むうちに、時間だけが過ぎていく、ということはよくあることだ。

 一方、成功した起業家の多くは「アイデアがあればすぐに実行する」を苦もなくやってのけている。それを可能にしているのが生来の実験好きであり、「実験に失敗はつきものだ」という考え方だ。アマゾンの創業者ジェフ・ベゾスは、こんなことを言っている。

「実験はイノベーションの鍵だ。予想通りの結果が出ることは滅多になく、多くを学べる」

「実験の回数を100回から1000回に増やせば、イノベーションの数も劇的に増える」

 イノベーションには「実験」が欠かせない。そして、「実験」には「失敗」がつきものだ。挑戦して失敗すれば、誰だってがっかりするが、彼らはそれさえも次に進むためのステップだと考える。だからこそ前に進むことができるのだ。

失敗を覚悟の上で挑戦する

 べゾスは、アマゾンの創業にあたってこう考えていた。

「失敗を覚悟すると、心は軽くなるのです」

 アマゾンの創業にあたり、ベゾスは成功確率を「30%」と考えていた。さらに自分の両親や友人たちに出資を依頼する際には、成功確率を「10%」と伝えていた。なぜなら、失っても生活に困らないお金だけを出資してほしい、と考えていたからだ。

 ベゾスは、なぜそんな弱気なことを口にしたのか?

「絶対に成功するはずだ」と思い込むとリスクを軽んじる恐れがあるし、「絶対に失敗できない」となると、成功のために必要なリスク覚悟の挑戦ができなくなるからだ。

 いわば、「失敗も覚悟」した上で、リスク承知の挑戦をしたことがアマゾンの成功につながったのだ。

 しかし、「成功確率30%」のアマゾンと比べても、マスクが起業したスペースXはさらにリスクの高い事業だった。

 実際、マスクの友人たちは、マスクが本気で宇宙ビジネスについて検討をし始めた時、ロケット爆発の映像を集めたビデオを見せて、お金の無駄遣いを阻止しようとしたくらいだ。

「イーロンのやっていることはおかしい。慈善事業だかなんだか知らないけどイカれてるね」

 マスク自身も、火星に人類を送り込むプロジェクトは人をわくわくさせるものの、100%の損失を見込むものだと覚悟していた。こう話している。

「始めた当初、こう思っていました。『スペースXは確実に失敗する』」

 もしかしたらどこかがスポンサーになってくれるかもしれないものの、短期間で利益が出るはずはないし、会社として大きな損失を被ることになるとも覚悟していた。それでもやらなければならない、というのがマスクの考えだった。

日本でイノベーションが起こりにくい理由

 当たり前の話だが、確実に儲かる事業なら誰だって喜んでお金を出すし、参画しようとする。反対に失敗の可能性が滅茶苦茶高い上に、大きな損失も出る事業にあえて参画する企業はほとんどない。

 日本でイノベーションが起こりづらい理由の一つとしてしばしば指摘されているのが「無謬性の原則」だ。日本の大企業や官僚機構に見られる現象で、「あるプロジェクト(政策)を成功させる責任を負った組織や当事者は、そのプロジェクト(政策)が失敗した時のことを考えたり議論してはいけない」という大原則だ。これでは「この政策はうまくいかない」とわかったとしても、軌道修正もできなければ、やめることもできなくなってしまう。

 こうした大原則が支配している企業や組織で、ジェフ・ベゾスやイーロン・マスクが生まれるはずはない。マスクの強みについて、最初の妻がこんなことを言っている。

「やると決めたら実行する人で、簡単には諦めない。それがイーロン・マスクの世界であって、その世界に暮らすのが私たちなの」

 マスクが掲げるビジョンはあまりに壮大過ぎて理解しづらいところがあるし、はたしてマスクが生きているうちに達成できるかどうか、わからないものもある。にもかかわらず、マスクがそうしたビジョンを堂々と口にして、実現に向けて挑戦し続けることができるのは、「失敗は成功に欠かせないものとして失敗を引き受ける」ことができるから。そして、「失敗から学びながら進み続ける粘り強さ」を持っているからだ。

ツイッターでたびたび炎上

 今の時代、「鋼のメンタル」が求められるのは会社の経営だけではない。ごく普通の人でさえ、何かのきっかけで「炎上騒動」に巻き込まれ、「誹謗中傷」にさらされてしまう。

 マスクといえば、最近日本でも大きな話題となったが、ツイッター社の買収の件だ。

 2022年4月、マスクはツイッター社の買収を提案、一度は合意に達した。しかし同年7月、ツイッター側に「重大な違反」があり「虚偽かつ誤解を招く」発言があったため、買収を断念した(※編集部注 紆余曲折の末、最終的には22年10月に買収した)。

 さて、マスクは、ツイッターのヘビーユーザーであり、フォロワー数は約8700万人もいる。これだけ人数がいると、発言一つにも気を遣いそうなものだが、マスクはしばしばツイッターで炎上騒ぎを起こす。それが、テスラの株価にも多大な影響を与えるのだ。炎上騒ぎのほとんどは、テスラやスペースXの広報が正式発表をする前に、マスクがツイッターで発信をして、平気でそれを取り消すといった行動を繰り返していることに端を発している。

 そのことが「はたしてマスクにCEOを任せていいものか?」という株主からの懸念につながっている。が、そもそもテスラやスペースXという野心的な企業を経営できる人間がマスク以外にいるのかとなると、やはりいないだろう。