生き物たちは、驚くほど人間に似ている。ネズミは水に濡れた仲間を助けるために出かけるし、アリは女王のためには自爆をいとわないし、ゾウは亡くなった家族の死を悼む。あまりよくない面でいえば、バッタは危機的な飢餓状況になると仲間に襲いかかる…といったように、どこか私たちの姿をみているようだ。ウォール・ストリート・ジャーナル、ガーディアン、サンデータイムズ、各紙で絶賛されているのが『動物のひみつ』(アシュリー・ウォード著、夏目大訳)だ。シドニー大学の「動物行動学」の教授でアフリカから南極まで世界中を旅する著者が、動物たちのさまざまな生態とその背景にある「社会性」に迫りながら、彼らの知られざる行動、自然の偉大な驚異の数々を紹介する。今回、本書の翻訳をした夏目大氏にインタビューを実施。魚の群れと人間の共通点について本書の内容に沿って聞いた(取材・構成/小川晶子)。
魚の群れはなぜあんなに動きが揃っているのか?
――『動物のひみつ』の中にあった、魚の群れの話がとても興味深かったです。水族館で魚が大群になって泳いでいるのを見ますが、なぜあんなに動きが揃っているのか不思議に思っていました。
夏目大氏(以下、夏目):自動車メーカーの日産が自動運転車を開発するにあたり、動物の集団、とくに魚の群れを何年にもわたって綿密に研究したそうですね。
指揮者のような存在はいないのに、なぜ美しく乱れのない動きができるのか。動物が従っているルールは次の3つです。
1.最も近くにいる者との距離が近すぎる時は、離れる
2.最も近くにいる者との距離が遠すぎる時は、近くに移動する
3.最も近くにいる者との距離が適切であれば、その者と同じ動きをする
この3つのルールに従っていれば、衝突することがありません。群れの端にいる個体が捕食者を見つけたら急激な動きをします。すると、近くにいる仲間がその動きを真似し、その近くにいる仲間がまた動きを真似する。そうやって情報を伝えているんですね。
そして、群れのうちの5%の個体が食べ物のある方向などに向けて動き出せば、残りはついていくので大きな群れを動かすことができるというのが面白い。
一匹だけが動いてもついていかないけれど、一定数の仲間が動き出せばみんなついていくんですね。
人間で実験してみた
――人間でやってみたらどうなるか、という実験の話も面白かったです。
夏目:ウォード博士が何人かの学生に「魚など動物の群れがなぜ意志を持った少数の先導で整然と動けるのか」という話をしたら、自分たちもやってみたいという学生が現れました。
そして、その場にいなかった学生を実験台にしたんですよね。かわいそうに、大学生は実験台にされがちです(笑)。こんな実験でした。
講義が行われる場所に向かって田舎道を30人ほど列になって歩く際、道が二つに分かれているところがあります。二人の学生が先頭に立ち、適当に左右どちらかの道を選んで進みます。
それを七回繰り返しました。どちらの道を選んでもあとで合流するので、各自好きなほうを進んでもいいはずですが、先頭の学生が選んだ道と同じ道を、残りの学生も進んだのです。
――人間も無意識に近くの人の行動を模倣しているんですね。
夏目:数百人の被験者をホールに集めて行った実験では、「常に動き続ける」「少なくとも一人の人とは、手が届く距離を保つ」というルールで動いてもらった結果、被験者たちは大きな輪を成すように並んで動くようになりました。
そして、少数の被験者にだけ「ホールの端の、あらかじめ定められた場所に向かって進む」ルールを伝えたところ、特に目的もなく動いている残りの被験者を先導することに成功しました。
――魚の群れと同じ。面白いですねぇ。
イトヨのクオラム反応
夏目:ただ、少数の行動についていけば安全とは限りませんよね。群れの中に向こう見ずな個体がいて、危険な行動をとったら周囲はどう動くのか。ウォード博士はイトヨという魚で実験をしています。
水槽の中に捕食者の模型を入れ、イトヨたちが安全な経路を移動しているのを確認したあと、危険な経路を進むイトヨの模型を入れるんです。危険な経路を選ぶイトヨが一匹のときはみんな無視しました。
では、二匹に増やしたら? 本物のイトヨたちはついていきそうな素振りを見せたけれど、結局、大多数は安全な経路を選びました。これは「クオラム反応」を探る実験です。
集団を成す動物は、ある行動をとる個体が一定数に達するまで、大多数の個体は反応しません。この反応する、しないの境目を「クオラム」と呼ぶのです。
――集団の中に、危険かもしれない行動をとるメンバーが一定数いた場合、自分はどうするだろう?と考えちゃいますね。動物の群れの話と人間社会の話を対比させながら話を進める構成は見事だなぁと思いました。
(本原稿は、アシュリー・ウォード著『動物のひみつ』〈夏目大訳〉に関連した書き下ろしです)
40億年を生き延びた生物が教えてくれること――訳者より
ある日突然、この世界から自分以外の人間が消えたら、と想像したことが誰でも一度くらいはあるのではないだろうか。
自分以外に人がいないとまず、電気が来ない、水道もガスも出ない。電車もバスも走らない。しばらくは生きられるかもしれない。食料はスーパーなどに行けば一応、ある。日持ちのするものもなくはないし、水はある。ただ、それも時間の問題だ。そう長くは生きられないに違いない。
人間は支え合って生きている。つまり人間は「社会的な動物」である、ということだ。それは精神的な意味だけでなく、もっと切実な物理的な意味でもそうだ。群れを成し、集団で生きる動物なのである。どれほど孤独を好む人ですらそうだ。
社会的な動物と聞いて思い浮かべるのはどの動物だろうか。よく知られているのはハチやアリだろうか。動物園でサルの群れを見たことがある人もいるだろう。オオカミやライオンも群れを成すし、イワシなどの魚も水族館で大群で泳いでいるのを見ることができる。集団で生きているものを社会的な動物と呼ぶのだとすれば、そうでないものをあげる方が難しいかもしれない。
本書はアシュリー・ウォード著“The Social Lives of Animals”の全訳である。直訳すると「動物の社会生活」となるタイトル通り、オキアミやバッタからチンパンジー、ボノボに至るまで様々な社会的動物の生態を詳しく解説してくれる。
だいたい進化の順(人間から遠い順)に並べているのだと思うが、読んでいて感じるのは、結局、どの動物も共通の祖先から生まれた親戚なのだなということである。もちろん、種ごとに大きな違いはあるのだけれど、本質的な部分に違いはない。人間もそこに含まれる。著者も文中で言っている通り、人間と動物の違いは量的なものでしかなく、質的なものではないということだ。
四十億年の時を超えて生き延び、今、生きているのだから、方向はそれぞれに違えど皆、必要にして十分な進化を遂げてきたのである。その意味で等価だ。どの生物も違う歴史をたどればまったく違ったものになっただろう。いずれも偶然の産物である。
皆、生き延びて子孫を残す、という目的は共通なのに、置かれた環境、経てきた歴史の違いにより私たち人間とどれほど違った、どれほど驚異的な生態の動物が生まれたのか、本書はそれを教えてくれる。
本書は一応、分類すれば「ポピュラー・サイエンス」の本ということになるのだが、読むのに高度な科学知識は必要ない。もちろん著者は専門の研究者として極めて科学的に研究をしているのだが、その成果の一つである本書は、言ってみれば「異文化理解の本」になっているからだ。
相手は人間ではなく、人間とは異種の動物たちだが、それぞれがどのような社会を作りどのように暮らしているかを知る、という意味では、外国の文化、社会を知る、というのと本質的には同じである。自分と異質なものを知りたいという好奇心のある人ならば誰でも楽しめるし、得るものがある。
本書にはもちろん、知らなかったことを知る喜びがあるのだが、単に雑学知識が増えるということではない。最も大事なのはそれまでになかった新たな視点が得られることだろう。視点が増えれば、長期的には人生がまったく違ったものになる可能性がある。本書が読者にとってそういう一冊になれば訳者にとってこれ以上の喜びはない。
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「「渡り鳥がVの字で飛行する際の驚くべき省エネ戦略や、ライオンの子殺しの真相など、次々と「動物のひみつ」が明らかになり、人間や動物の社会性って何なんだろうと考えさせられる。辞書のように分厚い本だが、あれよあれよという間に読み進んでしまい、感動の読後感が残った」(竹内薫氏・サイエンス作家)
☆ダヴィンチWEB・書評掲載(2024/4/10)☆
「突き抜けた動物愛を持つウォード博士の視点は、まさに独特。目次を見ると「シロアリは女王のために自爆する」「ゴリラは自分の罪をネコになすりつける」「クジラは恨みを忘れない」など、どれも興味深いものばかりです。厚さ約4センチで、読み応えたっぷりの一冊」(中村未来氏)
☆世界各国で絶賛続々! あなたの世界観が変わる瞠目の書!!☆
山極壽一(霊長類学者・人類学者)
「オキアミからチンパンジーまで動物たちの多彩で不思議な社会から人間社会の本質を照射する。はっとする発見が随所にある」
橘玲(作家)
「アリ、ミツバチ、ゴキブリ(!)から鳥、哺乳類まで、生き物の社会性が活き活きと語られてめちゃくちゃ面白い。……が、人間社会も同じだと気づいてちょっと怖くなる」
サンデー・タイムズ紙
「非常に印象的な本だ。ウォードは動物を細部までよく見ていて、生き生きと書いている」
ガーディアン紙
「魅力的で並外れた物語。サイエンスの面白さを伝えるとびきりの贈り物だ」
ウォール・ストリートジャーナル紙
「あらゆる場面で読者を驚かせるものが待っている。この本を支えているのは、著者のストーリーテリングの天賦の才能だ」
スティーブ・ブルサット(エディンバラ大学教授・古生物学者、ニューヨークタイムズ・ベストセラー著者)
「著者は動物が一般に考えられているよりもずっと社会的であることを明らかにする。最新の科学に深く切り込みながら、古い固定観念を打ち砕く。著者が描くのは、牙と爪で血の色に染まった自然ではなく、協力と協調にあふれた自然の姿だ」