“自分だけ節約”には
耐えられない

横田:入居金は払えても、そのあとも家賃を払い続けなあかんわけでしょう。元首相の母親が入居していた老人ホームなんかもあって、そりゃそんな人は入れますよねっていう感じがするんだけれども。どれぐらい寿命があるか分からないところが難しいですね。

甚野:なんとなく目安は出しているところもありますが、施設のパンフレットと同じで、それは多分あってないようなもので。

 隣に住んでいる入居者が贅沢な暮らしをしていて、それに少しでも羨ましさを感じたらきっとその額じゃ収まらないというのは当然あると思います。

横田:周りはお金持ちばかりですからね。

甚野自分だけ少し安いご飯を食べていたら、みじめだなって思ってしまう。世間の中では本来お金持ちの部類なのに。

設備の豪華さよりも
“人”のあたたかさ

横田:十分勝ち組なのに、その中でも上下があるんですね。取材した中で、一番まともだなと思ったのはどこですか。

甚野:最後の章に書いた地方都市の海沿いの施設でしょうか。自分が入るならここが一番いいなと思ったんです。

 設備面はもちろんすごいところもありますけど基本的にどこも一緒というか、ある程度よければ別にいいじゃないですか。シャンデリアがあったとして、既製品か高級ブランドかって別にどうでもいいですよね。結局は中に入っている“人”なんだと感じました。

横田:最後の施設では実際に甚野さんを働かせてくれるぐらいだから、懐が深い施設だっていうのはその一点からも分かりますよね。施設のソフト面は誰によって違ってくるんですかね。

甚野一番は、やっぱり従業員などの“働いている人”だと思うんです。たとえば、入居者からスマホの操作が分からないという相談があった時、普通の施設だとトラブルがあった時に揉め事になるからということで、従業員が関わる線引きをきちんと管理しているんです。

 それはある意味正解なのかもしれないけど、その施設はそれもやってあげてしまうような雰囲気がありました。だから、入居者も居心地がいいんだと思うんですよね。

横田:経営の方針もあるんですかね。

甚野:それもあると思います。たとえば三井みたいなブランドがあって、そのブランドイメージをしっかり徹底しましょうというホームもある。一方で、ワンマン社長のような人が頂点にいて経営している老人ホームもあるんです。

 いい従業員が集まってくるかどうかって、働きやすさも大いに関係しているので、経営者によるカラーの違いも感じましたね。

横田:理解があるワンマン経営ならいいけど、無理に経費を削れとか、いらんことするなとかいう経営者だと、ちょっとしんどいですね。

甚野博則(じんの・ひろのり)
1973年生まれ。大学卒業後、大手電機メーカーや出版社などを経て2006年から『週刊文春』記者に。2017年の「『甘利明大臣事務所に賄賂1200万円を渡した』実名告発」などの記事で「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」のスクープ賞を2度受賞。現在はフリーランスのノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌などで社会ニュースやルポルタージュなどの記事を執筆。近著に『実録ルポ 介護の裏』(文藝春秋)、『ルポ 超高級老人ホーム』(ダイヤモンド社)、『衝撃ルポ 介護大崩壊』(宝島社)がある。
横田増生(よこた・ますお)
1965年福岡県生まれ。関西学院大学を卒業後、予備校講師を経て、アメリカ・アイオワ大学ジャーナリズム学部で修士号を取得。93年に帰国後、物流業界紙『輸送経済』の記者、編集長を務める。99年よりフリーランスとして活躍。主な著書に、『潜入ルポ アマゾン・ドット・コム』、『評伝 ナンシー関「心に一人のナンシーを」』、『仁義なき宅配 ヤマトvs佐川vs日本郵政vsアマゾン』、『ユニクロ潜入一年』『潜入取材、全手法』など。『潜入ルポamazon帝国』(小学館)では、新潮ドキュメント賞、 編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞の作品賞を受賞。最新刊『「トランプ信者」潜入一年』(小学館)では、「山本美香記念国際ジャーナリスト賞」を受賞。