裁判中に相手が
“逮捕”されるも……

――これまでの裁判で印象深いケースはありますか。

甚野:介護施設のケアマネージャーでもあり役員でもある人が億単位のお金を横領していて、金額も含めあまりにも悪質だろうっていうことで記事を書いたんです。当然関係者にも取材を重ね、横領している疑惑のあった本人にも何度も取材を申し込んでいました。

 その結果、どうやらお金が親族の方に渡っている可能性があるんじゃないかという話を関係者が打ち明けてくれたのです。それを記事に書いたら、その親族から名誉毀損で訴えられたんですよね。

横田:横領していたケアマネージャーじゃなくて?

甚野:はい、親族からでした。これも出版社が訴えられて、僕は訴外でした。結局、地裁では出版社側が完勝したのですが、相手方は控訴してきましたね。でもしばらくしたら、横領疑惑のあった本人が逮捕されたんです。

横田:それでも裁判が続くんですね。

記事が事実でも
“訴訟”は起きる

甚野:名誉毀損以外だと、すべて匿名で書いた取材先から出版差し止めの請求が来たことがあります。

横田:出版差し止めって、ほとんど通らないでしょう。

甚野:もちろん相手の請求は却下されました。この時は、裁判所に証拠を提出していく過程で、記事で書いた内容が事実であるとどんどん明らかになっていきました。

横田:裁判はノンフィクションにつきものやからね。何がどう訴えられるか分からない。事実であっても、「名誉を毀損された」って言えば一応成り立つ。

 名誉毀損裁判では、「公共性・公益性・真実相当性」をメディア側が立証できれば相手の訴えを退けられる建前です。もし訴えられたことで周りから「何やってるんだ」なんて言われたら「ノンフィクションやってます」って話ですよね。

甚野:そうですね。向こうが訴えてくるのは自由なので。

甚野博則(じんの・ひろのり)
1973年生まれ。大学卒業後、大手電機メーカーや出版社などを経て2006年から『週刊文春』記者に。2017年の「『甘利明大臣事務所に賄賂1200万円を渡した』実名告発」などの記事で「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」のスクープ賞を2度受賞。現在はフリーランスのノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌などで社会ニュースやルポルタージュなどの記事を執筆。近著に『実録ルポ 介護の裏』(文藝春秋)、『ルポ 超高級老人ホーム』(ダイヤモンド社)、『衝撃ルポ 介護大崩壊』(宝島社)がある。
横田増生(よこた・ますお)
1965年福岡県生まれ。関西学院大学を卒業後、予備校講師を経て、アメリカ・アイオワ大学ジャーナリズム学部で修士号を取得。93年に帰国後、物流業界紙『輸送経済』の記者、編集長を務める。99年よりフリーランスとして活躍。主な著書に、『潜入ルポ アマゾン・ドット・コム』、『評伝 ナンシー関「心に一人のナンシーを」』、『仁義なき宅配 ヤマトvs佐川vs日本郵政vsアマゾン』、『ユニクロ潜入一年』『潜入取材、全手法』など。『潜入ルポamazon帝国』(小学館)では、新潮ドキュメント賞、編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞の作品賞を受賞。最新刊『「トランプ信者」潜入一年』(小学館)では、「山本美香記念国際ジャーナリスト賞」を受賞。