「軍需」と「民需」二つの事業
理由をひとことで言うならば、「事業を絞り込み過ぎたから」である。
かつて、アイロボットには二つの事業があった。「軍需」と「民需」だ。アイロボットが、ビジネスとして初めて成功したのは、軍需ロボットだった。湾岸戦争で使われた機雷を除去する「アリエル」に始まり、地雷除去・爆発物処理を担う「パックボット」、狭い場所に入り状況を確認する「ファーストルック」。アイロボットのロボットは、5000台以上戦場に配備されてきた。2002年発売の「ルンバ」が収益化するまでの6年間、アイロボットを支えてきたのは軍需事業だった。
「軍需」というと眉をひそめる方も多い。だが日本は、アイロボット製「軍需ロボット」に助けられた過去がある。それが上述の、福島原発事故で活躍した「パックボット」である。
パックボットは、瓦礫に生き埋めとなった被害者たちを救えなかった「オクラホマシティー連邦政府ビル爆破事件(1995年)」の教訓を経て開発された、災害救助ロボットだ。開発企業の公募を行ったダーパ(DARPA=米国国防高等研究計画局)の要件は以下のようなものだった。
「危険な建物内に入り、崩れた階段を上り、障害物を排除するアームを持ち、状況を解決できるロボット」
この能力が、放射能汚染物質や瓦礫が散乱する福島原発の事故現場で活用された。アイロボットは、福島原発事故から2週間後、無償でパックボット含むロボット4台を提供するとともに、スタッフ6人を現地に派遣。2台のパックボットが、構内に入り、約50分間をかけ放射線量・温度・湿度・酸素濃度などを測定している。報道で、パックボットがアームを駆使しながら原子炉建屋内に入る映像をご覧になった方もいることだろう。
アイロボットの創業者であり、ロボット工学の第一人者でもあるロドニー・ブルックス氏は、福島でのパックボットの活躍を「最も誇りに思う」として以下のように語っている。
『「ルンバ」を作った男コリン・アングル「共創力」』(大谷和利/小学館)より







