【一発アウト】「不動産の罠」に注意! 知らないと絶対損するルールとは?
本連載は、相続に関する法律や税金の基本から、相続争いの裁判例、税務調査で見られるポイントを学ぶものです。著者は相続専門税理士の橘慶太氏で、相談実績は5000人超。『ぶっちゃけ相続【増補改訂版】』を出版し、遺言書、相続税・贈与税、不動産、税務調査、各種手続といった観点から相続の現実を伝えています。2024年から始まった「贈与税の新ルール」等、相続の最新トレンドを聞きました。

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これはやめて! 不動産の「絶対NG行動」とは?

 本日は「不動産と相続」についてお話しします。年末年始、相続について家族で話し合う際、ぜひ参考にしてください。

こんな広告、見たことありませんか?

「共有持分だけ買い取ります」という広告は、街中やネットで目にする機会が増えました。共有不動産は、権利を持っていても自分では使えないことがあり、そうした人が持分だけでも売却して現金化したいと考えるのは自然です。そのニーズに応えるという意味で、共有持分の買取サービスに利用場面があるのも事実です。ただし、共有持分の売却は「売った人が楽になる」だけで終わらず、残された共有者や不動産そのものに、次の動きが必ず生まれます。そこまで想像せずに売ってしまうと、家族関係を壊す火種になりかねません。

 たとえば、一つの土地を長男と次男が2分の1ずつ共有しているケースを考えてみます。その土地には長男が居住し、次男は権利だけを持っていて自分では全く使えない。次男としては「使えない不動産を持っていても面白くないから、持分だけでも現金に換えたい」と考え、長男に持分の買取りを相談するものの、長男には資金的余裕もなく、買い取る意思もない。そこで次男は、共有持分の買取をうたう会社に相談し、実際の価値からすればかなり低い金額でも、「持分だけでも現金になるなら」と納得して売却します。

不動産会社が訴訟を起こす!

 ところが、その後に動き出すのは、持分を取得した不動産会社です。会社は長男のもとを訪れ、「新しい共有者になりました。この持分は不要なので買い取ってください」と求めます。長男が応じなければ、会社側は共有物分割訴訟を起こすことができます。

 共有物分割訴訟では、「土地を残したい人」、つまり居住している側に対して「その持分を買い取ってください」という方向で判断が出やすくなる傾向があります。それでも長男が「買い取る現金が用意できない」となれば、最終的に「土地全体を第三者に売却し、売却代金を持分に応じて分けなさい」という結論に至る場合もあります。次男は現金化できたとしても、その裏側で長男は住まいを失う可能性や、想定外の負担を背負う可能性を抱え込み、兄弟関係が決定的に悪化することもあり得ます。

不動産会社が利益を得る!

 数字で見ると、この仕組みはさらに分かりやすくなります。もともと1億円の価値がある不動産の2分の1を次男が持っているなら、本来の持分価値は5,000万円です。ところが不動産会社がその持分を2,000万円で買い取る。その後、分割協議や訴訟などの流れの中で、長男が最終的に5,000万円で買い取ることになったり、不動産全体が1億円で売却されて5,000万円ずつ折半になったりすれば、不動産会社には3,000万円の利益が残る構造になります。こうしたビジネスモデルが一定の規模で成立している以上、現実に同種の構図の案件は相当数あるだろう、という見方も示されています。

 では、不動産の「共有」自体が悪いのかといえば、必ずしもそうではありません。たとえば親子による共有は、設計次第で有効に機能することがあります。アパートを父と子で共有すれば家賃収入を持分に応じて分けられ、子どもに早い段階から収入を持たせることもできます。父が認知症になったり寝たきりになったりした場合でも、共有者である子が権利者として管理会社とのやり取りを進められる。さらに父の死後に子が持分を相続すれば、最終的に単独所有に戻すなど、将来を見据えた設計を描きやすい面もあります。

数字だけで判断するのはNG! 将来をよく見据えて

 一方で、兄弟姉妹による共有は、利害が一致している間は表面化しなかった問題が、「持ち続けたい人」と「売りたい人」が分かれた瞬間に一気に噴き出します。共有持分の売却が引き金となり、第三者が共有関係に入ってくると、話し合いの前提そのものが変わり、時間も費用も感情面の負担も膨らみやすい。共有不動産は、現金化の出口を作るつもりが、別の出口――つまり「全面売却」や「関係の決裂」――へ押し流されることがあるのです。

 相続対策で共有を選ぶなら、相続税の数字だけで判断するのではなく、共有が将来どこへ向かうのか、誰がどんな権利を持ち、どんな手段を取れるのかまで含めて、無理のない形を選ぶことが欠かせません。

(本原稿は『ぶっちゃけ相続【増補改訂版】』の一部抜粋・加筆を行ったものです)