ネガティブな感情によって拡散される

 炎上は次に過熱とループのフェーズに入る。

 SNSでは話題になっている投稿をピックアップしてほかのユーザーにおすすめ表示する機能がある。それによって興味を持った人が新たにその投稿に参加してくる仕組みになっている。これがそれなりの規模感で起こるといわゆるバズると呼ばれる現象になる。

 ではSNSがどのような投稿をピックアップしておすすめ表示するか。

 これを以降「拡散アルゴリズム」と呼ぶが、主要SNS間の拡散アルゴリズムは少しずつ違うものの、ベースは共通していて、「ユーザーの感情を動かす投稿」が拡散される。

 ユーザーが投稿に「いいね」やシェアを行うことで感情の動きが判定されるわけである。

「感動した」「笑った」「楽しい」などもそうだが、実はそうしたポジティブな感情より「怒り」や「敵意」といったネガティブな感情の方が、ユーザーの強い反応を引き出すことがいくつかの研究でわかっている。つまりSNSにおいては怒りの方が拡散力が強いのである。

 怒りによって拡散した話題は、(特に政治系など対立がある分野だと)共感だけでなく反論・反発を招くこともある。その反論・反発も拡散アルゴリズムに拾われて、投稿はさらに拡散されていく。

 かくして叩きに参加する人数はさらに増え、群集はより大きなものとなっていく。先に挙げた脱個人化や同調圧力などの群集心理が人が増えた分だけどんどん強まり、SNS拡散アルゴリズムが参加人数を一層増やし、群集心理が補強されていく……という、無限肥大化ループの完成である。

 なおこの肥大化ループは、参加者の温度が下がるにつれて消滅する。温度はおおむね時間経過によって下がっていくが、顔・実名・住所の特定など、制裁が限界と思われるところまで達してのち冷却方向に向かうこともある。

 ここまではネットで叩きが過熱する仕組みとして比較的研究・整理されてきた内容だが、本稿ではここに過熱ループを補強するもうひとつのルートとして「事件の2次利用」を追加して論じておきたい。