柳澤 また、商品の原価に対してどれだけの利益を加えて販売しているかを示す価格転嫁力、すなわち「マークアップ率」も国際的に見て低い。米国企業のマークアップ率は1980年ごろには1.1倍程度であったのが、2020年ごろには1.6倍程度へと大きく上昇していますが、日本企業のマークアップ率は1980年ごろから現在まで1.1倍程度で、ほぼ横ばいです。
これらの事実は、日本経済の長期にわたる停滞を招き、賃金上昇が押さえられてきたことにもつながっていると考えています。1991年から2024年までに米国と英国の名目賃金は約3倍、実質賃金で見ても約1.5倍に増えているのに対し、日本は名目賃金も実質賃金もほぼ横ばいという状況です。
実際、知的財産と賃金、あるいは知的財産と企業の業績には相関関係があるとする分析結果が、相当数発表されています。たとえば、米国や欧州の特許庁が出しているデータでは、知的財産を多く保有している企業の方が、そうでない企業に比べて一人当たりの賃金が高いという傾向が確認されています。
知財経営の重要性が
高まっている
――そうした状況の中で、近年、日本企業に意識の変化はありますか。
柳澤 2021年にコーポレートガバナンス・コードが改訂され、企業の取締役会は人的資本・知的財産をはじめとする経営資源の配分などについて、実効的な監督を行うべきであることや、上場企業は人的資本や知的財産への投資について、経営戦略に沿って分かりやすく具体的にステークホルダーに情報を開示すべきであることが定められました。このように、コーポレートガバナンスの観点からも、経営における知的財産への取り組みの重要性が打ち出されたことで、日本企業の意識は変わりつつあると思います。
イノベーションの停滞、国際的な「稼ぐ力」の差、データで見える知財活用企業の優位性、さらにコーポレートガバナンス改革の流れが重なって、「知的財産をきちんと経営に組み込めるかどうか」が企業の将来を左右する重要な鍵になってきました。知的財産を経営の最上流から戦略的に活用して「稼ぐ力」を強化することを特許庁では「知財経営」と呼んでいますが、この「知財経営」を実践してもらうことを日本企業に強く呼びかけているところです。







