日本企業の知財部門は
R&Dの下請けになっていないか

――そもそもなぜ、日本企業は「知財経営」が苦手なのでしょうか。

柳澤 日本企業は1980~90年代、特にエレクトロニクス分野で米国企業に特許侵害で訴えられ、多額の賠償金や和解金を支払うといった痛い経験を経て以来、大量の特許を出願して自社製品を防衛してきたという歴史があります。それ以降、日本のグローバル企業は「守りの戦術」は相当上手くなったと思います。

 ただ一方で、「攻めの戦術」には長けていません。特許侵害で巨額の訴訟を起こすとなれば、大きな経営判断となりますし、訴えようとした相手が実は社内の別の部門にとってはお客様であるといった場合もあるので、知財部門だけではなかなか判断ができない。財産をしっかり使うという意味では時に攻めることも必要だと思いますが、多くの日本企業はそのような組織体制になっていないと言えます。

 大きな課題は、知財部門の位置付けです。長い間、多くの企業で知財部門はR&D(研究開発)部門や事業部の下請けのような存在で、「研究者が出してきたシーズ(種)を権利化する係」にとどまっていました。経営戦略や事業ポートフォリオの組み替えなどの議論の場に、知財の視点が入ってこなかったのです。

 経営戦略や事業戦略がまず決まり、その後からR&D部門が研究開発を行い、最後に知財部門が「出てきた発明を権利化して守る」という流れ、あるいはR&D部門から出てきた発明がまずあって、それを基に事業戦略が作られ、最後に知財部門が「事業プランに合わせて発明を権利化する」といった流れでした。言ってみれば、知財部門は上から降りてきたものを処理するバックヤード業務だったわけです。