彼は日本語が堪能だ。病院などでの通訳も不要だし、行政的な手続きも自分でできる。まだ独身で、家族もいない。それなら牧場からエージェントに支払われる月1万5000円の手数料は、自分の給料に回してもらった方がいい。

 彼のようなホースマンが少しずつ増えている。

牧場に外国人労働者を
入れるため『獣医学』に着目

 生産牧場ガーベラパークスタッドの本巣夫妻は、以前から釈然としない思いを抱えていた。浦河町の育成牧場には、2015年から、サム氏がインド人の乗り役を入れるようになった。騎乗技術のあるインド人を連れてくるのが、エージェントにとって急務だった。

 乗り役の在留資格は「特定技能」だ。しかし育成牧場では、馬に騎乗せず、もっぱら廏舎でグラウンド業務を担う“乗り役”も増えていた。廏舎での作業員なら、生産牧場にとっても喉から手が出るほど欲しい。

「生産牧場にも外国人を入れる手立てはないのか?」

 本巣俊光さんは東京で開かれた軽種馬農協の総会で、出席する政治家に訴えたこともあった。日高では生産牧場の方が、育成牧場より数が多い。俊光さんのやるせなさは、生産牧場を営む人たちに共通する思いだった。

「でも私、見つけたんです。『獣医学』って項目が書かれてあるのを」とマダム(編集部注/本巣俊光さんの妻、本巣隆子さんの愛称)が微笑んだ。

 外国人の在留資格は29種類あるが、その中に「技術・人文知識・国際業務」(通称「技人国」)という資格がある。

 大学などで専門分野を学んだ外国人に適用され、更新すればずっと日本で働くことができる。日本の労働者と同じく、有給休暇も与えられる。一方で雇用する側も、そこで働く日本人と同等の賃金を支払う、などの決まりがある。

「この資格の『技術』という項目に、該当する職種がたくさん書いてあるんですけど、その中に『獣医学』ってあるのを見つけたんです。『これだ!』と思って。通訳とかコンピューターの技術者とか、そういう人たちと同じですからね。この在留資格を使って外国人を入れたのは、全国の牧場でうちが初めてです」

仲間の牧場を助けるため
本格的に事業を起こすことに

 マダムは、有料職業紹介事業許可を取ることも決めた。

「『仲間の生産牧場にも働き手を届けたい』って。『海外のエージェントと渡り合うとき、留学の経験もある私の英語は多少武器になるかもしれない』と思って」