札幌の労働局に、事業の内容や規模、責任者となるマダムの履歴書など、たくさんの書類をそろえて提出した。書類審査に通ると、分厚いテキストが送られてくる。それを見ながら講習に臨んだ。地方在住者は、申請すればリモートで受けられる。
講習中マダムが取ったノートを見せてもらった。
「日本の人口推移 2015年→2060年マイナス4000万人」(私はこの数字に仰天した。広く国民に周知するべきだ)「高いスキルを持った人材が必要」「法定労働時間」など、手書きの文字が並んでいた。講習が終わるとすぐに筆記試験。四択で答える。
「1日で終わるんですけど、朝から晩までびっしりで……。合格率は7割程度って聞いてたから、私は3割の方かと思ってたら、受かったんです」
試験に受かると、労働局による実地調査が行なわれる。マダムは自宅2階の書斎に「オフィス」と書いたプレートを掲げた。札幌から3人の担当者が訪れたが、調査終了後、そのうちの1人に「何か深いご事情でもあるんですか?」と尋ねられたという。
ベトナム人エージェントは
不誠実な上にぼったくり!?
マダムを失望させたのが、ズー(25歳)だ。「ズーは質問すらしてこない」と苦笑する。
「仕事で必要になるから日本語勉強してね」と辞書を渡すと、「仕事でクタクタなのに、そんな時間なんてあるわけがない」と言い放ったそうだ。
マダムはズーを雇用した際に、日本とベトナムの「獣医学」の違いを知ったという。
「日本で獣医っていうと国家資格で狭き門なんですけど、ベトナムでは試験なんてないってわかったんです。ヒョー(編集部注/本巣夫妻の牧場ガーベラパークスタッド場長。35歳のベトナム人)もトン(編集部注/ベトナム人の25歳)も5年間勉強してるのに、ズーは3年しか大学に行っていない。『これ、おかしいんじゃないの?』って向こうのエージェントに言ったら、『小学校から15年間学校で学べば、日本の在留資格の要件を満たすんだ』って言われて……」
ズーは牧場の道具を自分にしかわからない場所に仕舞ったり、スイッチが壊れた草刈り機から無断でエンジンを外して自分の自転車に取りつけたり、禁煙の宿舎内でタバコを吸って床を焦がしたり、マダムをあきれさせた末、ベトナムに帰国した。
「私、エージェントだから他の牧場に人を紹介できる立場だけど、あなたのことは紹介できません、って言うしかなかった」







