この、一夫多妻制という奇天烈なテイのアイドルプロジェクトが、キモくもイヤらしくもならずに、プロのアート表現として整い成立しているのは、ひとえに楽曲やメンバーのパフォーマンスの完成度の高さにある。そして一夫多妻制というワードで呼びつつも、かつてのオールドファッションな家父長制とは微塵も関係がなく、誰も傷つかない男女の関係性が担保された秀逸な安心感は特筆に値する。
一夫多妻の「清家」において、一方的かつ圧倒的に立場が弱いのは「夫」である竜人その人である。夫人たちは竜人からたっぷりと平等に愛の言葉を注がれ、全肯定され満たされた夫人たちも愛し返し、従って夫人間で比べ合わず、序列は存在しない。グループ内で完結した八方よしの恋愛関係。ファンはそのイチャイチャを見せてもらって、あふれこぼれる多幸感を浴び、いわば"お裾分けにあずかる"わけだが、自分を投影して仮想の多幸感に浸ることも可能だ。
ファンは愛の図式に参加するものであるため、ライブでは、コンセプトを正しく理解している男性ファンが「竜人くん抱いて~!」「俺もッ!」「俺も抱いて!」「俺も抱かれたい!!」と野太い声で歓声を上げ、爆笑が起きる。夫人たちはあくまでも「竜人くんの妻」であるため、「清家」の中で恋愛が完結しているので、ファンの側からアーティストに対してガチ恋という危険が発生しづらい。一夫多妻制というユートピアなコンセプトひとつで、このリスクばかりのコンプライアンスの時代にさまざまな問題をクリアしているわけだ。一夫多妻制アイドルという発明。これが慧眼でなくてなんであろうか。
ラストライブ前夜に発表された、最後の新曲
思い出せば思い出すほど、清竜人というミュージシャンの才能に感心が止まないのだが、それを改めて感じたのはラストライブ直前の朝だった。
前夜、Xの清竜人本人アカウントから新曲が発表されていた。最後の新曲となった『GOOD BYE!愛してるよ!』は、「僕は行かなくちゃならない」「こんな風に独りよがりな僕を許して」「愛しているのに 君と逃げられない 僕はいつも」「ちゃんと僕はできなくて」「まともに別れも言えずに」と、清竜人の別れの言葉を5人がしっとりと重層的に歌い上げる。
「僕を嫌いになってくれよ」「僕を恨んでくれよ」と去られる側の感情を柔らかく吸収しつつ、最後にはまだ「僕を愛してくれよ」と言い残す清竜人に、「なんていい男なんだ……」と苦笑した。お互いに未練もわだかまりも残さない、けれどもしかして再会したときの接点はポジティブにつないでおく。
ラストライブ開演前の行列(筆者提供)







