「新しいテクノロジー」という前向きな意見と
「なんかやだ!」という否定的な意見

 賛成・容認派はトラック・音楽生成AIを単に「新しいテクノロジー」として捉えている。マイク、エレキギター、サンプリング、DTMなどが誕生し、初めて世に出てきた時にそれぞれ大きな衝撃があったように、音楽は機材やテクノロジーとともに進化してきた歴史がある。音楽生成AIもそのひとつで、「音楽シーンが新たなステージに入った」という前向きな受け止め方が可能である。

 一方、否定派は音楽生成AIがもたらす影響に否定的・悲観的で、現在はこちらの声の方が大きい印象である。

 先のAIアーティスト制作者のジョーンズは、そうした否定的な考えがあるのは当然としたうえで「人それぞれが自分のやり方で努力して今の場所にたどり着いている」と述べているそうで、音楽畑でやってきた筆者としては、AIを使用する制作者の努力も否定するつもりはないが、練習や勉強に何千、何万時間と費やしてきたミュージシャン・アーティストの努力と同列に論じてほしくないような気がしないでもない。

 まあこの辺はあくまで気分とか主観に属する感想で、AI音楽を否定している人の多くは「なんかやだ!」という思いが強いが、もっと実際的にはAI曲の台頭によってミュージシャンたちの食い扶持は必ず何割かは削られる。

 非AIの音楽シーン全体の競争の低下が懸念されていたり(AIが教材にする元の音楽シーンが低調になれば、AI曲のクオリティも連れて下がる可能性あり)、AIが学習に用いている楽曲群は著作権で保護されているものだから、AI曲の著作権も危ういだろうという指摘などがあって、ポール・マッカートニーやスティーヴィーワンダーなど、時代をけん引してきた超大御所多数をはじめとするアーティストが警鐘を鳴らしている。

 レコード会社の動きも多様で、ジョーンズの例でAIアーティスト獲得に向けて数社が動いたことからわかるように、AI曲から展開するビジネスに前向きな会社もあれば、AIアーティストとは契約しないと明言する会社もある。ソニーは所有するコンテンツをAI学習目的で使用することを禁じる声明を出した。