養老孟司氏養老孟司氏
*本稿は、現在発売中の紙媒体(雑誌)「息子・娘を入れたい会社2026」の「INTERVIEW『新しい時代』の生き方、働き方」に掲載したインタビューを転載したものです。 

天災や戦争など刻々と変化を続ける不安定なこの世界において、どのように未来を思い描き、仕事を探せばいいのか。これから社会に出る若者の生き方について、昆虫標本コレクションを構える箱根の別荘で養老孟司氏に話を聞いた。2回に分けてお届けする。(取材・文・撮影/嶺 竜一)

時代の転換期にはいつも
大きな天災が起きている

──過去に世の中を大きく変えた出来事にはどんなものがあるでしょうか。

 日本の歴史上、時代が転換するのはいつも天災によるものです。

 歴史を振り返れば、政府は大きな天災があるたびに潰れている。例えば1923年に起きた関東大震災。あの天災で大正デモクラシーの機運が一気に冷め、陸軍出身の田中義一内閣(1927~29年)ができた。

 軍国主義が強まったのは世界大恐慌(1929年)が原因だといわれているが、私は一番大きな要因は震災による心の変化にあったと思う。1日にして10万5000もの人が命を落としたことで、政府は大量の国民が死ぬということに慣れてしまったんです。

──東日本大震災の後も民主党政権が倒れました。天災で社会が変わることを繰り返していますね。

 そうです。さらにさかのぼれば、1853年に浦賀にペリーが来航して、外圧で江戸幕府が倒れたということになっていますが、僕は違うと思っている。

 その翌年に南海トラフにより立て続けに大地震が起きて、天災に対する幕府の打つ手がまずかったから信用を失い、倒幕運動が成功したのです。

 平安京の崩壊も天災です。1181年から全国で干ばつと大風、洪水が続き「養和の大飢饉」が起きた。

 疫病も蔓延して死屍累々となり、京の都が死臭に包まれた様子が『方丈記』に書かれている。地方から都に運ぶ食料を山賊や海賊が奪って、侍が力を付けた。そうして奈良朝以来の朝廷政治が終わり、鎌倉に武家の政権ができる。