──普遍的な価値を身に付けるということでしょうか。
ストレス学説を作ったハンス・セリエというオーストリアの学者が、自伝でこう語っています。
彼の父親は貴族だったが、第1次世界大戦で財産を全てなくし、身分も家柄もあっという間に消えてしまった。
その父から「そんなことでなくなるようなものは自分の財産ではない。身に付けたものは何があっても失われないから、そういうものを身に付けろ」と言われたと。そして彼は生理学者となりストレスの正体を突き止めた。
一生を賭けるに値する
楽しいことに没頭せよ
──養老先生は解剖学者であるとともに、昆虫採集家でもあります。一生かけて虫の研究を続けていますが、これもご自身が身に付けた普遍的な価値といえそうですね。
養老孟司ようろう・たけし/解剖学者・評論家。東京大学名誉教授。1937年生まれ。人体解剖や脳科学に精通し、著書『バカの壁』で広く知られる。自然との共生や現代社会への鋭い批評でも注目を集めている。昆虫採集・標本収集を生涯のテーマとし、取材が行われた箱根の別荘には「養老昆虫館」と呼ばれる標本コレクションを構えている。
僕は小学4年生の頃から標本を作り始め、87歳になった今も作っている。どうしてそこまでやるのかと聞かれますが、何かの役に立つからじゃない。自分のためです。
自分のためにやることだから、全て自分でやるしかない。
何かを本気でやっていくなら、ありとあらゆることを学ばなければならない。標本作りで身に付いたことはたくさんあります。
標本ラベルの謄写版をガリ版で作っていたから、小さな字を絶えず書き、ずいぶん字が上手になった。
若い頃から論文を読むために、英語もたくさん読んだ。物事は追求しないとやったことになりません。
勘違いされがちだけど、道を突き詰めるということは、同じことばかりやるということじゃない。
狭い道にのめり込んでいくと、学問が広がり、ありとあらゆることを学ぶことになる。
「この道一筋」というのは、地味に見えても「一生を賭けるに値する」仕事だという意味なんです。
そして最も大事なことは、好きなことをするよりも、それをやっている自分が楽しんでいるということです。一生を賭けて楽しめるもの。これから社会に出る学生の皆さんには、そういうものを見つけてほしいと思います。









