池谷裕二氏
脳の不思議と人間の可能性について研究の最前線を担いつつ、一般向けに多くの著作を通じてをわかりやすく発信してきた池谷裕二氏。就活生とその親に向けたアドバイスを聞いたインタビューの第二弾では就活につきものの不安との対峙法について聞いた。(取材・文/奥田由意、撮影/平野晋子)
仕事選びにおける不安と
「ネガティブ・ケイパビリティ」の効用
――就活期間は、実際に内定を得るまで、あるいは内定を得ても、不安の連続です。この不安にはどのように対処すればよいでしょうか。
就活における不安は避けられないもので、ある意味で、不安を感じること自体は自然なことです。そのうえで、必要なのは「ネガティブ・ケイパビリティ」なのだと思います。
似たものとして、「レジリエンス」という概念がありますが、レジリエンスは逆境から立ち直る力で、ネガティブ・ケイパビリティは、「容易に答えの出ない事態に耐えうる能力」。「モヤモヤ」した状態で結論を出さずに放っておく勇気と言い換えてもいいでしょう。
もともとはロマン派のイギリスの詩人、ジョン・キーツが不確実なものや未解決のものを受容する能力として提唱したものです。
脳科学的な観点でも、不確実で曖昧な状態にあるとき、脳のさまざまな部位が無意識のうちにさまざまな情報を処理し、いわば「熟成させ」ています。
そしてそれらがあるタイミングで、素晴らしいアイデアや解決策に結実すること分かっています。ですから、これは芸術家にとってだけでなく、一般的な社会生活においてもとても重要な能力なのです。
就活では思い通りにならないことがいろいろ起きるでしょう。それまでの人生がどんなに順調だったとしても、就活で10社受けても8社程度不採用になるのは普通のことです。
これは就活生にとって人生初の大きな挫折体験です。たとえば、東大の私の研究室の院生、特に27歳くらいの博士課程の学生などは、これまで全能感に満ちた生活を送ってきたため(笑)、「あなたは必要ない」と言われると、深刻にショックを受けます。実際、ほぼ全員が大なり小なりうつ症状を呈することになります。
この状況は、前回述べたユーダイモニックなウェルビーイングの3要素すべてを一度に否定される体験でもあります。希望する会社に入れない(自律性の欠如)、自分の能力が認められない(コンピテンスの否定)、社会とのつながりを感じられない(関係性の断絶)という三重の否定に直面するからです。
けれども、たとえ、受けた会社に全て落ちたからといって「自分はダメだ」「必要とされていない」と早急に結論づけて、悲嘆にくれる必要はない。「まあ、いろいろ難しくてすっきりしないけれど、とりあえず次の機会を待とう」と考えればいい。







