このように思い切った決断を下せた理由は、ティッシュがこのとき、心理学でいうところの「至高体験」(peak experience)というものを経験していたからだった。
心理学者のアブラハム・マズローは、至高体験を次のように説明する。
「めったに起こらないものではあるが、ワクワクし、広大かつ深遠な感動を呼び起こし、気分が爽快になり高揚する経験。このおかげで現実をもっと深く理解できるようになる。至高体験はそれを経験する者に対し、神秘的で不思議な影響さえも与える」
マズローはさらに、至高体験は人として自己実現するために不可欠だと主張した。そこでは、自分の基本的な欲求はすべて満たされ、自分が持つ潜在能力をあますところなく発揮できるのだ。
至高体験は、強化された環境――もっというと、休息とリカバリーに向けて最適化された環境――で起こる可能性が高い。
だからこそ、最高にクリエイティブなひらめきが降りてくるのは、大なり小なり「旅」をしているときが多いのだ。
デザイナーのステファン・サグマイスターの例を考えてみよう。
ステファンはニューヨークにスタジオを構えているが、クリエイティブな物の見方を再活性化させリフレッシュするために、7年に1度、スタジオを閉めて1年間の休暇を取ることにしている。
「仕事から離れている1年の間に最高のアイデアがひらめき、その後2年かけてそのアイデアを追求する」とステファンは説明する。
これまで経験したことがなかった環境でリラックスした状態でいると、頭の中で物事を自分なりにつなげて整理できるようになる。さらに、自分は人生で何がしたいのかをじっくりと考えることができるようになる。
ここでステファンがしているのは、至高体験を追求するという行為に他ならない。
ユタ州の牧場で行われる
至高体験を得る合宿
至高体験は、人生やキャリアの軌道を変えてしまう。
自分の認識や価値観が変わるほどの強烈な経験をして初めて、自分の人生で今、実際に何が起きているのかを理解できるようになる。
そしてその高い視点の状態にいるときに、自分の人生と水準をいかにして高めるか、揺るぎない決断を下せるようになるのだ。







