
「わしと夫婦になろう」
母親の提案にサワは自分の本心を誤魔化(ごまか)して対応する。でも横顔は嘘(うそ)をつけない。何かを考えている雰囲気。こうなったら庄田と結婚するのが一番だと誰もが思うだろう。
翌日か数日後かはわからない日。庄田が山橋(柄本時生)の経営する西洋料理店に入ると、そこには錦織(吉沢亮)がいる。庄田が呼び出したのだ。
夕方、いつもの時計がボーンボーンと鳴る。今度は白鳥倶楽部。サワが勉強に励んでいると、庄田が息を切らせて階段を上がって来た。いつもの和服と違って洋服を着ている彼に「めかしこんでいる」とサワ。
「ごめんね 今日教えられなくて」と言う庄田。何かほかにめかしこむ用事があったようだ。
「誰もいない。ならちょうどいい。おサワさんに一番に報告したかったから」という用事は、県知事閣下(佐野史郎)と会って、松江中学校の英語教師をやることに決めたことだった。
西洋料理店で錦織に会っていたのはその件だった。
「こげなこと言うのもあれですが、教えちょる庄田さんかっこええ」
サワは英語教師をやることに賛成し、お祝いに「おそばでも食べに行きますか?」と誘うと、庄田はもうひとつ言うことがあると真剣な顔をする。
教師になることは最重要事項ではなく、もうひとつ、最重要事項があった。
「このために今日教師になってきたというか」と前置きし、おもむろに――。
「わしと夫婦になろう」「ほれてるんだ、おサワさんに」
教師になったのは結婚のためだったのだ。
「来月から月25円。それでおサワさん家の借金返して長屋を出よう」
25円。トキの女中の給金より上だ。良い条件ではないか、サワ。
思いがけない求婚を聞いたサワの瞳には光がたっぷり入り、とてもかわいい。カメラや照明が最高の表情を映そうと全力で仕事している。
ところが、場面は変わって、いつもの長屋の共同炊事場。サワはぼーっと川の向こうを見ている。







