高市発言への中国の反発と
日本が行うべき対応
しかし、11月7日の高市氏の発言をきっかけに、中国側は日本に対して圧力一辺倒の強硬姿勢を取っている。日本への団体旅行を含め、学術交流や文化交流までストップしているほか、日本で中国人を狙った犯罪が増えているとか、軍国主義を復活させる企みがある、日本は台湾統治時代に何十万人もの同胞を殺害したなどといった荒唐無稽な話まで国の内外に向けて宣伝している。
1月6日には軍民両用品目の対日輸出規制が発表されたが、この対象にレアアースが含まれるのかなど、具体的な措置の内容は依然としてはっきりしない。
そもそも高市氏は国会で何と語ったのか。ニューヨーク・タイムズなどの国際メディアは「中国が武力攻撃したら日本は台湾を守る」と言ったと報じているが、それは誤りだ。岡田克也議員との長い問答の全容を読めば首相の答弁の主旨は明らかであり、政策に変更はなく、「被害国を含めた他国にまで行って戦うなどという、海外での武力行使を認めるものではない」という法制局長官の見解も確認された。
しかし最後の方で、中国が台湾に武力を行使した場合には「どう考えても(集団的自衛権を発動して実力行使する)存立危機事態になり得る」という発言があり、そこだけ切り取れば答弁の主旨が誤解される可能性はあった。高市氏は後日、「反省点もある」と述べ、今後は特定のケースに言及しないとして事実上の前言撤回を行った。
それにもかかわらず、中国側はなぜ強く反発し続けているのか。習近平政権は台湾との統一に特別の思い入れがあるように見受けられる。統一は民族の悲願だとする姿勢は昔からだ。だがそれに加え、海洋強国となって海洋進出する上で台湾は戦略的に重要になる。つまり、台湾を得れば「海洋地政学上半封鎖の状況にある」(習近平)中国にとって第一列島線上に突破口が確保される。
2027年に中国が台湾に侵攻するという説に十分な根拠があるとは思わないが、習近平が「力こそ正義」の時代への転換を認識し、自分のレガシーとして台湾統一を考える可能性は否定できない。
対日政策という観点からは、2025年が戦後80周年ということもあり、中国側は歴史と台湾を重要トピックとすることを年初から決めていた。景気が回復せず、プライベートな場面では習近平批判のボルテージが高まる社会状況下で、愛国主義教育が国民をまとめる重要な手段だと考えられていることは間違いない。日中戦争をテーマとした映画が放映され、日本人学校はスパイ養成所などというSNS上のデマが取り締まられない所以である。
高市氏が台湾と良好な関係を有するため、中国側は政権発足当初からその言動に警戒していたという事情も、今回の強い反発の要因として挙げられよう。
日本は、日中関係に世界が注目していることを好機と捉え、世界の平和と発展に貢献してきた日本の政策や、防衛費を増やして抑止力を高めざるを得ない現状について効果的にアピールするのがよい。
外交的な働きかけの相手には米国も含まれる。訪中時のビッグ・ディールを目論むトランプ大統領は、目下のところ日本の肩を持つ様子はない。日本側は、アジアにおける米国の権益の大きさを思い起こさせ、力による現状変更を防止することの利益を明示するべきだ。
そして中国に対しては、首脳会談で合意したばかりの重層的な意思疎通を今こそ実現しようと呼び掛けるのがよい。無知や誤解が判断を誤らせ、誰も望まない衝突を招かないよう、日中双方が対話の早期実現に動くことを願ってやまない。
(伊藤忠総研研究顧問 高原明生)







